研究課題/領域番号 |
23500507
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
越後貫 成美 独立行政法人理化学研究所, 遺伝工学基盤技術室, 専任技師 (40373287)
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キーワード | マウス / 一次精母細胞 / 顕微授精 / 発生工学 |
研究概要 |
マウスにおける顕微授精技術はほぼ完成した技術といえるが、一次精母細胞の顕微授精は産仔率が低く実用レベルに達していない。発生工学的興味、さらにはヒト不妊治療への将来的な利用観点からも一次精母細胞の低受精の解明および解決は非常に重要である。本研究は産仔効率がきわめて低率である一次精母細胞を用いた顕微授精の異常メカニズムを明らかにし、その効率を実用レベルまで引き上げることを目的としている。2年目である本年度は引き続き、一次精母細胞注入直後からの卵子内での現象の把握を試みた。 一次精母細胞注入胚の低産仔率の原因の一つとして、第一減数分裂時の姉妹染色体の早期分離が示唆されている。ライブセルイメージング技術を用いて一次精母細胞顕微注入直後から卵子内の雌雄染色体の挙動について解析した結果、一方の染色体の分離が開始しているのに他方の染色体が凝集状態であるなど、雌雄両染色体の分裂スピードが一致していないことが明らかとなった。さらに継時的にホールマウント標本を作製したところ、ライブセルイメージングと同様の結果が得られた。また一次精母細胞顕微注入胚のヒストンアセチル化に関する免疫染色を行った結果、通常の受精では精子侵入後に卵子のヒストンアセチル化レベルは低下するところ、一次精母細胞顕微注入胚では高アセチルを維持している胚が多く観察され、ヒストンアセチル化の異常が発生を阻害している可能性が明らかになった。現在、セントロメア部あるいは免疫染色や雌雄染色体を判別できる染色法を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
去年度と本年度で一次精母細胞注入胚のライブセルイメージングとホールマウント標本により一次精母細胞注入胚の発生時に起こる異常現象の把握を行うことができた。本年度ではさらに細部まで把握するため、免疫染色法の精度と抗体の選抜を確実にしてきた。それと平行して一次精母細胞注入胚で観察される姉妹染色分体の早期分離の自然状態でのモデルとして、老齢マウス由来の卵子による観察も行っている。次年度は本年度までに得られた情報を元にメカニズムの解明および改善を試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
去年度と本年度の研究により一次精母細胞注入胚の注入直後からの卵子内での挙動とその化学修飾状態について、ライブセルイメージング技術、あるいは免疫染色法を利用しての細部までの理解が進んだ。次年度では一次精母細胞顕微注入胚での姉妹染色分体の状態を観察するために、姉妹染色分体の結合をつかさどるコヒーシンの動態についての解析も行う。 これらの解析によって得られた情報により、卵子あるいは一次精母細胞に化学的修飾状態や顕微注入の時期を操作して改善条件を検索する。 さらに、一次精母細胞顕微注入胚の解析で得られた技術をもとに老齢マウス由来の卵子の解析も現在平行して進めている。本研究と同時に老化卵子の低受精率の改善についても取り組んでいく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額:730,698円 次年度使用額が生じた理由:研究が順調に進み、マウスや消耗品の使用が少なく済んだ為。 本研究では共焦点レーザー顕微鏡やマイクロマニピュレーター装着倒立顕微鏡、ライブセルイメージングシステムなどの実験器具はすでに申請者が所属する研究室が所有しているもの、もしくは導入予定のものを使用する。 ・マウス購入・維持費:卵子・精細胞採取用BDF1マウスおよび胚移植・里親用ICRマウス@1,000~1,500円x200~300匹+マウス用餌・顕微授精消耗品:プラスチック消耗品、試薬など。約2,000円/1回x70~90回・ライブセルイメージング経費:mRNA調整試薬、抗体、PCR経費、画像データ保存用HD・旅費:関連学会における成果発表と情報収集を兼ねる。・外国語論文の校閲および学会誌投稿料
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