研究課題
本研究では、小児慢性特定疾患であるシスチン蓄積症の新たなモデルラットを開発し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた簡便で迅速な高感度診断法を開発することを目的とする。1. 新規シスチン蓄積症モデルラットの樹立:インスリン分泌不全型糖尿病モデルであるLEAラット(J. Diabetes. Res., 2013)の原因遺伝子を解析する過程で、LEAラットではシスチン蓄積症の原因遺伝子であるシスチノシン(CTNS)に欠損があることを見いだした。スピードコンジェニック法によりCTNS変異をF344系統に導入したコンジェニック系統の作製が完了し、兄妹交配によりホモ欠損ラットを樹立した。2. 新規モデルラットにおけるシスチンの定量:昨年度開発したHPLCを用いたシスチン高感度定量法を用いて樹立した新規モデルラットの各組織におけるシスチンを定量した。その結果、24週齢の腎臓および脾臓では、コントロールに比べそれぞれ1.7倍および87.2倍蓄積していた。興味深いことに、脾臓では8週齢においても4.2倍蓄積しており、脾臓におけるシスチン蓄積量が早期診断に有用であることを示した。3. ダイナミックCT法を用いたシスチン蓄積症診断への応用:シスチン蓄積症は腎障害が最も重篤な症状であり、腎機能評価が新たな治療薬の開発には不可欠なパラメーターとなる。ダイナミックCT法は造影剤を急速に静脈内に投与し、同一部位を連続的に撮影することで血管性病変や腫瘍性病変の診断に用いられている。腎尿細管上皮細胞が変性しているLEAラット腎臓をダイナミックCT法で撮影した結果、ピーク時の最大CT値が約15%優位に低下していた。ダイナミックCT法は非侵襲的、経時的に腎機能を評価できるため、シスチン蓄積症における腎機能評価に有用である可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
CTNS変異導入コンジェニックラットの作製は、昨年度までに予定より1世代早いN6世代(D/R比:0.7%)まで完了していたが、目的遺伝子近辺の組換えがおこらず、N9世代でコンジェニックが完了した(D/R比:0%)。24 週齢コンジェニック系統の評価は終わっており、高週齢における各組織の評価も今年度中に終了する予定である。さらに、ダイナミックCT法により腎機能が評価できる可能性が示されたため、治療薬による評価も多面的に行えるようになった。コンジェニック系統の遺伝子組換え率が悪かったため、コンジェニック系統の樹立に2世代程度余分にかかってしまったが、新たなダイナミックCT法がシスチン蓄積症の腎機能評価に有用であることが示されたため、研究計画は順調に進展している。
樹立したCTNS変異導入コンジェニックラットのシスチン蓄積症モデルとして有用性を評価する。特にCTNS遺伝子を欠損したマウスモデルでは、腎障害が起こりにくいことが報告されているため、主に腎障害に焦点を当て、シスチン蓄積量および病理学的変化を経時的に観察する。シスチン蓄積症モデルとしての評価を行うとともに、唯一の治療薬であるシステアミンの効果を検証する。
コンジェニックラットの樹立が遅れたため、その解析に使用する経費を次年度に繰り越した。次年度の研究費は、実験動物およびその飼育経費、HPLCを稼働させるための消耗品費、病理学的解析のための物品費等として使用する。その他は、研究成果発表の経費(論文投稿料および国内外学会参加のための旅費等)として使用する。
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J Diabetes Res
ページ: 986462
10.1155/2013/986462
PLoS One
巻: 7 ページ: e49055
doi: 10.1371/journal.pone.0049055