研究課題/領域番号 |
23500512
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
中澤 靖元 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20456255)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 人工臓器工学 / 再生医工学 / 材料科学 / 絹 |
研究概要 |
現在市販されている人工血管素材を用いた小口径人工血管は、血栓が生じやすく、使用方法が限定されているため、小口径人工血管の開発は急務かつ同分野において重要な課題となっている。絹フィブロインは高い強度を有することから期待されているが、人工血管として必要な伸縮性や弾性などに乏しい。そこで本研究課題では、ポリウレタンを絹フィブロインと複合化させた新規素材の開発に取り組むこととした。今年度はまず複合化した各分子の構造およびダイナミクスについて検討を行なった。試料は絹水溶液を水分散性ポリウレタンと水中で混合し、比率を変えた数種の絹-ポリウレタン複合材料を作製した。固体NMR測定は、13C CP/MAS法による詳細な構造解析、T1H測定による相溶性解析、TCHおよびT1ρH測定によるダイナミクス解析を行った。13C CP/MAS NMR測定の結果より、絹フィブロイン、ポリウレタン共に、混合前後の化学シフト値に変化はなく、構造的には独立して存在していることが推測された。そこで分子レベルでの相溶性についてさらに詳細な議論を行うため、T1H測定による評価を行った。上述したいずれの比率の複合材料も絹フィブロイン(T1H=1.059s)やポリウレタン(T1H=0.467s)のみのT1H値とは異なり、各分子のT1H値が近似していることがわかった。また、算出したスピン拡散の最大拡散距離はそれぞれ24.0nm, 50nmであることから、分子同士は完全な相溶ではないが、部分的な相溶状態にあることが示唆された。またT1ρHの測定結果では、複合材料中のPU濃度が上昇するにつれて、徐々に運動性は徐々に減少する上、比率の違いにより局所的な相溶状態を支持する結果が得られた。上記研究成果は、関連学会への報告および関連誌への投稿を行っている。また本年度得られた知見は、次年度以降の材料開発への情報に活用する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は本研究課題における最終目的である絹フィブロイン-ポリウレタンの複合材料の開発において重要な、分子レベルでの構造およびダイナミクス解析を重点的に行った。そのため、概要に示した複合材料そのものの解析の他に、絹フィブロイン自身の解析についても重要な研究テーマであるため、並行して進めている。また、本研究課題では絹自身への修飾を行うことでより効果的な材料の開発を検討している。これに関連し、絹フィブロインに細胞接着性を付与した新規絹様タンパク質のNMR構造解析について、Biomacromolecules に発表した。今年度、主要な研究となった絹-ポリウレタン複合材料の構造・ダイナミクス解析についてはPolymer Journalに投稿し、受理されている。研究の達成度は概ね想定通りではあったが、研究代表者の所属する施設の耐震改修工事によりポリウレタンの合成およびNMRによる測定結果の解析が当初より遅れてしまったため、論文への投稿が予定より若干遅れたことが反省点である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、昨年度に引き続き、混合材料のさらなる構造的・物性的検討を行うと共に、別の品種の絹フィブロインについても同様の検討を行うことで、新規材料開発の指針を得ることを目的とする。また24年度からは、絹フィブロインとポリウレタンの複合材料の検討を行う。複合化には2液混合(絹表面への非結合型定着法)および結合型(絹とポリウレタンを化学的に結合させる方法)を予定している。さらに、人工血管を作製するための「エレクトロスピニング法」の検討を行う。人工血管を作製する際、血管内腔と外側の絹:ポリウレタン比を変化させ、濃度勾配を付加した材料、すなわち「傾斜材料」の作製方法をこの系で確立し、ナノファイバーの人工血管を作製する指針を得る。また平成24年度より、絹フィブロインの構造的知見、および複合方法による知見を活かした他分野での応用法についても検討を開始する。連携研究者である東京農工大学大学院 朝倉哲郎教授との共同研究により、種々の絹を用いた医療材料への適用や絹のコーティング剤(劣化防止剤)への適用に対する検討についても行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、申請者が所属する研究施設の耐震改修・機能改善工事が行われたため、想定した予算を使用することができず、約35万円の残予算が発生してしまった。平成24年度については、新たな実験室による実験が想定されるため、残予算と合算し、昨年度から購入を検討していた簡易型ドラフトチャンバー「ダクトレスヒュームフード」の購入を予定している。本装置を購入することで、ポリウレタン合成および、複合化に関わる実験を安全に行える上、効率の良い実験が可能となる。また、NMR解析用のソフトウェア(Origin8.6)についても購入予定である。また、高分子学会年次大会(横浜)、高分子討論会(名古屋)、NMR討論会(名古屋)、繊維学会(東京)への研究発表を予定しており、参加費、旅費を使用する。
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