小脳は、脳の皮質形成のモデル系として長く研究され、解剖学的、電気生理学的、組織化学的知見が十分に蓄積された研究対象である。申請者は小脳皮質の分化過程の研究で、グルタミン酸とγアミノ酪酸(GABA)の放出パターンを調べるために、伝達物質の酸化還元酵素を用い、発生する蛍光分子によって神経伝達アミノ酸の分布を観察するデバイスを自家開発した。これを用い、小脳神経回路発達に関与する伝達物質とそれを制御する分子の研究を進めたところ、未分化のグリア細胞からGABA放出が見られることを見いだした。グリア細胞の分化に伴い、GABA合成酵素GAD65/67の発現が低下し、同時にGABAトランスポータのVGATの発現が消失すること、これらの現象が細胞内リン酸化で制御されている可能性を発見した。 グリア細胞からのGABA放出は、顆粒細胞の増殖を強く刺激することも観察されたが、神経回路形成への関与ははっきりしなかった。そこで、グリア細胞の情報伝達物質であるATPの時空間分布を可視化する新規の酵素光学法を開発した。酵素にグリセルアルデヒド 3-リン酸脱水素酵素を用いてグルタミン酸刺激によるATP放出量を測定したところ、小脳プルキンエ層(PL)及び顆粒層(IGL)で、一過性のATP放出が観察された。 小脳分化に対するGABAトランスポータの影響を調べるために、抗てんかん薬バルプロ酸を胎児期に投与したところ、出生仔の小脳で過剰なGABAの放出が観察された。GABAトランスポータの影響を調べるために、抗てんかん薬バルプロ酸を胎児期に投与したところ、出生仔の小脳で過剰なGABAの放出が観察された。GABAトランスポータの発現は抑制され、同時にプルキンエ細胞の樹状突起が早期から著しく発達していた。バルプロ酸投与動物では、ATPも早期から大量に放出され、神経回路発達に介入することが観察された。
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