研究課題
本研究の目的は近紫外線殺菌の機序について基礎的な知見を得ることである.特に近紫外線領域の様々な波長に対して細菌内で起こる反応を遺伝子発現量の観点から明らかにするために,初年度(平成23年度)は 1. 対象菌(腸炎ビブリオ)に目的の波長・放射照度の近紫外線を照射することができる装置の製作と,2. 照射条件および遺伝子発現解析の手技も含む実験方法・条件の検討を行った.2,3年目では310nm,365nm,385nmの3種類の波長の紫外線照射に対して,遺伝子チップを用いて遺伝子発現量を測定し,機序の特定を試みた.各波長ごとに3から4回程度の照射実験を行い,遺伝子発現量を比較したところ,紫外線照射によって有意に影響があったと見られる光回復反応に関連する遺伝子が見つかった.しかし発現遺伝子の実験ごとのばらつきが大きく,合理的な説明を加えるまでには至らなかった.また波長ごとの違いについても不明瞭であった.4年目にはこれまでの3波長に対する実験の追実験と,波長依存性をより明確にすることを目的として,検証波長として290nm,340nmを追加して実験および解析を行った.その結果,(1) 鞭毛集合を構成する遺伝子の一部で,特に340nm,365nm,385nmで発現比の変化が見られ,特に365nmで顕著であった.(2) ヒスチジン代謝関連の遺伝子が340nm,365nmで発現比の変化が見られ,特に340nmで顕著であった.(1)より365nmのUVが腸炎ビブリオの遊走機能や鞭毛数に影響する可能性が示唆された.(2)から340nmのUVでヒスチジンの産生に影響する可能性が示唆された.L-ヒスチジンはラジカルのスカベンジャーとしての機能することが知られており,UV-Aの主たる殺菌原理とされている活性酸素による殺菌の機序を説明できる可能性があることが示唆された.
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