研究概要 |
これまで細胞内に導入したL-cysteine capped CdTe QDの蛍光強度が周囲の酸素濃度に応じて可逆的に変化する事を明らかにした。この実験では酸素濃度変化に応じてQD蛍光が相対的に変化するのを証明したのにとどまり、さらには相対変化の基準を得るための必須の操作である酸素濃度の異なる気相と緩衝液との平衡に30分以上の時間を要したことから、実用的な細胞内酸素濃度計測手法としては不十分なものであった。そこで、1回の測定のみで細胞の酸素濃度推定が可能となるよう、互いに蛍光波長の大きく異なる酸素非依存性のQDと酸素依存性QDを細胞内に同時に導入し、両者の蛍光比から細胞内酸素濃度の推定を行う事を計画した。連携研究者により合成された酸素非依存性QDのglutathione capped CdSe/ZnSe QD(QD540, 蛍光波長 540 nm)と酸素依存性QDのL-cysteine capped CdTe QD(QD580, 蛍光波長 580 nm)の同時画像化をおこなうために、440 nmの単一励起光に対してQD540とQD580蛍光を分離できるよう光学系の最適化を行った。しかしながら、この時点でQD580蛍光とQD540蛍光にかなりのコンタミネーション(干渉)が存在する可能性が疑われ、結果的に酸素濃度依存性蛍光の変化幅が低下した。以上の観察結果は今回用いたQDの特性からは説明できるものではなかったため、さらに詳細に調べてみると、細胞の自家蛍光、特にFAD(flavin adenine dinucleotide)自家蛍光の影響が強く疑われた。以上より上記の2種類の蛍光には自家蛍光成分がオフセットとして重畳しており、蛍光比から酸素感受性蛍光色素の蛍光変化を計算するには、自家蛍光成分を除去する事が必須であることが明らかとなった。
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