赤血球の変形能を評価するため,マイクロマニピュレータの先端にマイクロピペットを取り付け,陰圧を付加することによる赤血球の単軸引っ張り試験を行った。そして,赤血球全体の引っ張り方向のひずみと応力(印加圧力)の関係を直線近似し,赤血球全体の見かけのヤング率を求めた。 次に,この実験に対応する三次元の数値シミュレーションを行った。赤血球膜は弾性膜とモデル化し,流体との連成解析にはimmersed boundary法を用いた。引っ張り力を受けた赤血球は実験とほぼ同じ形状に変形し,引っ張り力から解放されると実験結果と同様の応答を示して元の形状に戻った。計算の妥当性が確認されたため,糖尿病や高脂血症などの血液循環器病が赤血球の変形能に与える影響を調べるシミュレーションを行った。すなわち,赤血球膜のヤング率や赤血球内部溶液の粘度を変化させ,これらの変化が赤血球の変形特性や形状回復時定数に及ぼす効果を示した。その結果を解析することにより,赤血球の力学特性を同定できる可能性を示した。 模擬赤血球としてマイクロカプセルを用いることを目標として,直径が10μm程度の大きさのAPA(アルギン酸-ポリエルリジン-アルギン酸)マイクロカプセルを作製し,マイクロマニピュレ-タを用いた圧縮試験を行った。この実験を理論的にモデル化し,力と変位の関係を実験結果にフィッティングすることにより,マイクロカプセルの力学的特性を評価する方法を開発した。その際,マイクロカプセル膜の透過性と浸透圧差により生じる膜の初期伸長をモデルに考慮することが重要であることを示した。 さらにマイクロカプセルに先端が尖った圧子を押し込む実験を行った。そして,その変形をモデル化することにより,力と変位の関係の実験結果を用いて,マイクロカプセルの力学的評価が可能であることを示した。
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