前年度までに新生児群、胎児群及び培養群間の脂肪酸含有量の比較検討を行って、培養系では新生児群に比してω3系及びω6系多価不飽和脂肪酸が著しく不足していることが確認され、このことが培養心筋細胞の機能発現に影響を及ぼすとの本研究の仮説が強く支持された。この結果を受けて、まずω6系のリノール酸を用いて培地添加法の検討を行った。その結果、脂肪酸をアルブミンに結合させて培地へ添加すると、極めて高効率に細胞内へ取り込ませることができること、並びに細胞内で脂肪酸の伸長反応が起こっている可能性が高いことが分かった。またその添加量は、血中の濃度付近が最適であることを、培養細胞重量と細胞内脂肪酸量から確認した。 これらの結果に基づき、本年度はまずω3系のリノレン酸及びドコサヘキサエン酸の培地添加が、心筋細胞内多価不飽和脂肪酸に及ぼす影響を検討し、さらにω6系脂肪酸との同時添加の影響も検討した。その結果、リノレン酸の添加では種々のω3系脂肪酸の増加が見られたが、ドコサヘキサエン酸の増加は顕著ではなく、その単独添加が必要と考えられた。次にリノレン酸とリノール酸の同時添加を試みたところ、お互いに悪影響を及ぼすことなく細胞内に取り込まれることが分かった。またこの時、細胞の拍動状況を測定したところ、脂肪酸無添加群と比べて収縮率で約2.0倍、拍動数で約1.3倍になり、その効果が確認された。さらにこの過程で、アラキドン酸及びネルボン酸についても増加が見込めないことが分かった。 上記の成果の前半部分は英文学術雑誌(査読有)と図書(共著)に掲載された。さらに2報の英文論文を準備中である。また国内外でそれぞれ1回の研究発表(いずれも査読有)を行った。 今後は、増加が見込めなかった3種の上記脂肪酸について添加量の最適化を進めるとともに、生体内を模擬した力学的負荷印加時の拍動機能向上の程度についても検討していく予定である。
|