研究課題/領域番号 |
23500544
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
長崎 健 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30237507)
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研究分担者 |
高橋 雅也 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 電子材料研究部, 研究員 (90416363)
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キーワード | がん治療 / コウジ酸 / 核内移行 / 中性子捕捉療法 / 薬物送達システム / ホウ素化合物 / 放射線増感剤 / 中性子 |
研究概要 |
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)はがんに対する放射線療法の一種である。この治療法はがん細胞に対して、予め、ホウ素薬剤を取り込ませておき、そこに比較的エネルギーが低く人体への影響の小さな熱中性子や熱外中性子を照射することによって起こる核反応を利用している。 メラノーマは予後の悪いがんで、進行すると外科手術や化学療法では治療困難なため、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に期待が寄せられている。そこで本研究では、メラノサイトに対して特異的親和性が期待されるコウジ酸をリガンドとし、メラノーマに対する効率的なホウ素デリバリーシステムの構築を目的としたコウジ酸修飾カルボラン化合物(CKA)のBNCT薬剤としての評価を行った。 コウジ酸構造をメラノーマに対するリガンドとして用いることで、CKAはメラノーマ細胞であるB16BL6細胞の方が大腸がん細胞であるcolon26細胞よりも多く細胞内に取り込ませることがわかった。免疫染色の結果から、細胞内に取り込まれると細胞内の核に集積することがわかった。核内に集積することによって、細胞に対する障害性を与え、さらには、BNCT効率を高めていると考えられる。 また、京都大学原子炉実験所において、照射1時間前に腹腔内投与した後、中性子を照射し(5 MW 18 分間)、マウスのサバイバルを追跡した。実際に中性子を照射してのBNCT評価では時間・濃度依存的に延命効果が得られ、かつ、現在臨床に用いられているL-BPAと比較しても同等もしくはそれ以上の延命効果が得られたことから、新しいBNCT薬剤として十分期待できる。 カルボランとコウジ酸の融合BNCTマテリアルは細胞内動態において、核内への集積が促進されることでBNCT効果が向上しており、メラノーマに対する有用性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はこれまでにないホウ素クラスター高分子薬剤を合成し、それらの細胞内局在を制御し、細胞内動態と中性子捕捉反応による細胞障害性の相関に関する知見を得ることで、選択的かつ効率的BNCTの開発へ貢献することを目指す。 これまで、コウジ酸構造を有するカルボラン誘導体(CKA)の水溶性が乏しい問題点を、可溶化剤であるシクロデキストリンとの超分子形成によって克服した。また、CKAはメラノーマ細胞に対して非常に高い取込効率を有することを見出し、細胞内に取り込まれた後、核内に集積し細胞内動態が特異的であることを明らかとした。また、メラノーマ細胞を移植した担がんマウスに対して腹腔内投与後、中性子照射により腫瘍増殖抑制効果を比較検討した結果、CKA投与により高い延命効果がもたらされ、現在臨床研究に用いられているホウ素薬剤と同等もしくはそれ以上の効果を示すことが明らかとなった。このように、当初の研究の目的はほぼ達成しているが、コウジ酸構造を用いることでの細胞内移行機構や核内移行機構などは全く不明なままであり、コウジ酸構造を有する抗がん剤開発にむけて、機構解明を進めて行く。
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今後の研究の推進方策 |
コウジ酸構造を用いることでの細胞内移行機構や核内移行機構などは全く不明なままであり、コウジ酸構造を有する抗がん剤開発にむけて、機構解明を進めて行く。 先ず、コウジ酸は麹によるグルコース代謝中間体で有り、グルコース類似構造を有している。このことから、細胞生存に於いて必須のグルコースを取り込むためのグルコーストランスポーターを介して細胞内移行してることが想定される。そこで、グルコーストランスポーターの関与を抗体などを使用して評価する。また、グルコーストランスポーターの関与が明らかとなれば、現在がん治療に於いて大きな問題となっている「がん幹細胞」に対する新規薬剤開発に有効な手段となることが期待される。つまり、低酸素・低栄養状態のニッチに存在するがん幹細胞では、細胞に必須の物質を取り込むトランスポーターが発達しており、グルコーストランスポーターも例外ではない。従って、コウジ酸構造がグルコーストランスポーターによる認識に基づいて細胞内に移行しているのであれば、がん幹細胞に対する有効な薬物送達システムの構築が可能となる。 また、核内集積における、核内移行が核膜孔を介した輸送であるかの検証なども行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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