研究課題/領域番号 |
23500569
|
研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
岩瀬 由未子 横浜薬科大学, 薬学部, 講師 (00521882)
|
研究分担者 |
梅村 晋一郎 東北大学, その他の研究科, 教授 (20402787)
弓田 長彦 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (40191481)
|
キーワード | アポトーシス / ドラッグデリバリーシステム / ナノ微粒子 / マイクロ微粒子 / 超音波 |
研究概要 |
超音波は生体に対する深達性に優れるので、外部エネルギーとして用いれば、生体深部にある患部にも適用することができると考えられる。さらに、超音波の音圧に感応して周波数特異的に共振するナノ微粒子でがん組織を標的化すると、このナノ微粒子が目的部位に集積したかどうかを超音波画像診断によって可視化し確認できる。そして、薬物の集積を確認した上で、超音波を照射し、ナノ微粒子を音響化学的に活性化させることで、抗腫瘍効果を発現することができる。そこで、本研究では、DDS単独の技術的な限界を克服することを目的に、遠隔作用力を持つ外部エネルギーである超音波と音響化学的に抗腫瘍活性化するナノ微粒子を組み合わせた新たな治療システムの開発を行うことを目的とした。 これまでに、超音波単独、または薬物との併用による抗腫瘍効果を、in vitro腫瘍細胞を用いて確認した。超音波と併用することにより殺細胞効果が発現、または増強されるナノ粒子をスクリーニングした結果、フラーレン、水酸化フラーレン及びトリスフラーレンで優れた増強効果を認めた。活性酸素種消去剤添加の殺細胞作用に対する効果とESRによる活性酸素種の測定から、殺細胞作用機序における一重項酸素の関与を確認した。 本年度は、水酸化フラーレンを用い、マウス皮下に移植した実験腫瘍(Colon26)を対象に、薬物の体内動態と音響化学療法の効果を調べた。水酸化フラーレンを直接腫瘍に注入後超音波照射を行った。薬物・超音波それぞれ単独では効果を生じない投与量と強度において腫瘍の増殖を抑制できることが確認された。この結果からin vivoにおいてもフラーレン誘導体が音響化学的に抗腫瘍活性化されていることが示された。 次年度以降は、ナノ微粒子の活性化するための超音波を照射条件の詳細な検討とナノ微粒子の音響化学的活性化によるアポトーシス誘導の検討を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、超音波単独、またはナノ粒子との併用による抗腫瘍効果を、in vitro腫瘍細胞を用いて確認した。超音波と併用することにより殺細胞効果が発現、または増強されるナノ粒子をスクリーニングした結果、フラーレン、水酸化フラーレン及びトリスフラーレンで優れた増強効果を認めた。超音波の作用には物理作用と、キャビテ-ションを介して発生する活性酸素種による化学作用とがあると推定されるため、活性酸素種消去剤添加の殺細胞作用に対する影響を検討した。OHラジカルの消去剤であるマンニトールとスパーオキサイドラジカルの消去剤であるSODの添加は併用による殺細胞効果に対し有意な抑制作用を示さなかったのに対し、一重項酸素の消去剤であるヒスチジンの添加が、超音波とフラーレン、または水酸化フラーレン併用処置の殺細胞効果を著しく抑制することを認め、殺細胞作用機序における一重項酸素の関与を確認した。超音波照射による水溶液中での活性酸素生成をラジカル生成を指標として電子スピン共鳴(ESR)により測定した。活性酸素に特異的なスピントラップ剤による生成量の測定と消去剤による阻害効果により一重項酸素の関与を推定した。本年度は、水酸化フラーレンを用い、マウス皮下に移植した実験腫瘍(Colon26)を対象に、薬物の体内動態と音響化学療法の効果を調べた。水酸化フラーレンを直接腫瘍に注入後超音波照射を行った。薬物・超音波それぞれ単独では効果を生じない投与量と強度において腫瘍の増殖を抑制できることが確認された。この効果は投与量に依存して増強され、一定の超音波強度より上の強度領域で認められた。これはキャビテーションに特有の現象であり、薬物活性化におけるキャビテーションの関与を強く示唆した。以上の結果からin vivoにおいてもフラーレン誘導体が音響化学的に抗腫瘍活性化されていることが示された。
|
今後の研究の推進方策 |
培養細胞を用いたフラーレン誘導体の音響化学活性の評価 スクリーニングが終了していないフラーレン誘導体について、超音波単独、またはフラーレン誘導体との併用による抗腫瘍効果を、培養細胞で確認する。超音波と併用することにより殺細胞効果が発現、または増強されるフラーレン誘導体をスクリーニングする。さらに活性酸素種に特異的な消去剤による阻害効果によりそれらの殺細胞作用における寄与を確認する。(担当 弓田・岩瀬) 移植固形腫瘍を用いたフラーレン誘導体の音響化学的抗腫瘍活性化の評価 薬物の活性化治療に適した超音波を照射することによりフラーレン誘導体の活性化による音響化学的抗腫瘍効果を発揮させ腫瘍の治療を行う。実験腫瘍は難治性のColon26を使用し、抗腫瘍効果の判定は、腫瘍径を測定し腫瘍の縮退を判定する。また処置後の腫瘍をHE染色し、組織のダメージの程度を見積もる。(担当 弓田、梅村) フラーレン誘導体の音響化学的抗腫瘍活性化によるアポトーシス誘導 超音波単独、またはフラーレン誘導体との併用によるアポトーシス誘導を、培養細胞で確認する。超音波と併用することによりアポトーシスを誘導、または誘導を増強するフラーレン誘導体をスクリ-ニングする。アポトーシス誘導の判定は、蛍光顕微鏡による形態変化の観察、DNA断片化のアーガロース電気泳動による検出とカスパーゼ3の活性化によって行う。(担当 弓田、岩瀬)
|
次年度の研究費の使用計画 |
横浜薬科大学薬物動態学研究室では、申請した研究内容を行うための設備はほぼ完備されている。そのために、今回の研究経費は消耗品、実験動物の購入、成果の論文掲載費および学会等での発表に関わる旅費に当てられる予定である。本研究で使用するナノ微粒子の購入と実験動物での治療効果を確認するに多くの経費を使用する予定である。この理由として、超音波の生体作用はナノ微粒子により大幅に増強され、そのナノ微粒子の音響化学活性の検出が本研究のキーとなることと超音波の抗腫瘍効果がナノ微粒子の導入により増強されることを動物実験によっても実証する必要があることが挙げられる。電子スピン共鳴スペクトルなどの機器分析によるデータの回収、および細胞培養等を用いたナノ微粒子のスクリーニングや抗腫瘍効果に関与する活性酸素種の同定など機能解析によるメカニズム解明にかかる試薬等が残りの多くを占める予定である。しかしながら、これらの購入には残額を充てることで十分に賄えると考えている。その他の経費として、本研究の成果を報告するための学会発表、および論文投稿にかかる経費を挙げる。
|