研究課題/領域番号 |
23500592
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
林 良太 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (40288949)
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研究分担者 |
川平 和美 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (20117493)
下堂薗 恵 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (30325782)
余 永 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (20284903)
緒方 敦子 鹿児島大学, 医学部・歯学部附属病院, 助教 (40305123)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 知能ロボティクス / 医療・福祉 / 脳神経疾患 / バーチャルリアリティ |
研究概要 |
本年度は,脳卒中患者を対象とした立体視知覚異常検査システムの開発を行い,臨床データを収集して提案する検査システムの実施可能性について検討した. 被験者にコンピュータプログラムで描いた検査用立体画像を仮想現実空間上に表示するために,偏光フィルタを取り付けた2台の液晶プロジェクターを用いた立体画像表示装置を構築した.そして,3次元の仮想現実空間上に2つの図形を表示して,偏光メガネを通して視認した両者の遠近の判断を問う検査課題を作成した.仮想現実空間上に表示する立体図形の候補として,立方体を用いて健常者に立体視知覚試験を行ったところ,図形の大小関係や稜線の視覚情報によって,立体視を行うことなく遠近を判断できてしまうことが判明した.そこで,このような要因を排除して,両眼視差によってのみ遠近の判断ができる稜線を持たない立体画像を用いた検査方法を考案した.また,両眼視差の度合いを変化させた検査課題を複数回ランダムに表示して,その正答率により立体視知覚異常の程度を定量化するシステムを構築した.開発した立体視知覚異常検査システムを用いて,脳卒中患者および健常者に対して検査試験を実施したところ,以下の結果を得た.1)脳卒中患者の中で正答率が低い者と高い者がいた.2)正答率の低かった脳卒中患者に対して,一週間の時間をおいて再検査を行ったところ,一週間前と同様の検査結果を得た.3)健常者の中に正答率がやや低い者がいた.4)正答率が低かった健常者に対して,繰り返し検査を実施すると正答率が高くなる傾向があった. 以上の結果から,提案する検査システムを用いて,立体視知覚異常を検出できる可能性を示すことができた.また,繰り返し検査を受けると正答率が上がる傾向があることから,訓練課題を工夫することによって,立体視知覚機能を回復するための訓練支援システムを考案できる可能性を見出すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発した検査システムによる検査試験の結果から,立体視知覚異常を検出できる可能性と,立体視知覚機能を回復するための訓練支援システムを考案できる可能性を見出すことができたので,概ね順調に進展している. ただし,提案する検査システムの対象者が脳卒中患者の場合,検査課題を正しく理解しないままで遠近の判断を回答してしまう可能性がある.よって,検査課題を被験者が正しく理解していることを確かめるための簡単な練習課題を工夫して作成し,検査前に実施できるようにすることが今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度に明らかになった課題を解決し,さらに得られた研究成果をもとに,立体視知覚機能の回復を訓練するシステムを開発する.これまでの検査課題とは異なる訓練課題を考案し,遠近の判断が可能な両眼視差の閾値レベルで,遠近の判断を問う課題を繰り返し行う訓練システムを構築する.その際,訓練データを保存して,訓練の経過を分析するためのコンピュータプログラムを開発する.そして,開発した検査システムと訓練システムとを併用して臨床データを収集し,脳卒中患者における立体視知覚異常改善の可能性を検討する. 脳卒中患者の立体視知覚機能回復の可能性を確認することができれば,本研究の次の段階として,体性感覚や触覚と視覚とを融合した空間知覚が正しく行えるかを検査するシステムの開発を試みる.その際,計測制御技術を応用して,立体視した目標に向けて手を伸ばす動作を測定し,視覚空間で捉えた目標の位置に正しく手を到達させることができるかを検出する機構を考案する.提案する検査システムを実現することで,立体視した目標に手を伸ばして掴むという日常生活で行われる基本的動作における障害を検出し,その治療に役立てることを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は以下の項目ごとに挙げた研究費(総額170万円)を計上している. 1)検査課題の理解を確認するための訓練課題の検討:検査システムでの立体画像表示用液晶プロジェクタ,スクリーン,偏光フィルムの購入費(10万円).検査システム設置用機械構造材の購入費(5万円).2)立体視知覚機能回復訓練システムの開発:訓練システムのコンピュータプログラムを開発するためのノートパソコン,プログラム開発用ソフトウェアの購入費(30万円).集中的訓練のための立体画像表示用ヘッドマウントディスプレイの購入費(55万円).3)視覚と触覚を組み合せた空間知覚異常検査システムの開発:計測制御用ノートパソコンの購入費(20万円).力や位置の計測用センサ,サーボモータの購入費(15万円).入出力モジュールの購入費(10万円).機械構造材の購入費(5万円).4)資料収集および学会発表:旅費(15万円).その他として,臨床データ収集の補助および整理の人件費(5万円)を計上しておく. なお,本年度の収支状況で生じた996円の残額については,次年度の研究費執行時に生じる端数の調整に使用する予定である.
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