研究課題/領域番号 |
23500596
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
石合 純夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (80193241)
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研究分担者 |
橋本 祐治 札幌医科大学, 医学部, 研究員(Researcher) (90585019)
青木 昌弘 札幌医科大学, 医学部, 助教 (20515788)
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キーワード | 外傷性脳損傷 / 高次脳機能障害 / 神経心理学 / 就労 / 職業 / 画像診断 |
研究概要 |
1.神経心理学的検討と就労指導 外傷性脳損傷による高次脳機能障害患者は平成26年度末までに26例が集積された.障害内容は多様であり,障害の程度もWMS-Rの記憶指標で50未満~119,WAISのIQで49~125と幅が広い.就労は10例であり,一般就労5例,自営業2例,一般非正規雇用1例,障害者非正規雇用2例であった.一般就労がやや多く見えるが,完全な復職は1例のみであり,障害を申告しての復職2例(単純作業1例,家族経営の会社員1例),障害を申告しての就職1例(単純作業),負荷の少ない仕事に転職1例となっている.就労にあたっては,高次脳機能障害の内容と程度を本人・家族に説明し,求人情報等から得られる職業の認知的要求とのすり合わせを行った.継続的就労は,1回の就職ではなかなか得難かった.「職業の認知的要求尺度」の確定には,さらなるデータ収集が必要と判断している. 2.Iomazenil SPECTによる検討 本年度は,びまん性軸索損傷の5例についてIomazenil SPECTを検討する機会を得た(検査実施は,「脳外傷後高次脳機能障害に対するIomazenil SPECT共同研究(研究代表者 東北大学 森悦郎)」によって行われた).3D-SSPでみた大脳皮質の集積低下は,前頭葉背外側面3例,同内側面2例,同眼窩面(+脳梁膝周囲)1例,頭頂葉外側面1例,後部帯状回2例であった.Iomazenil SPECTで皮質細胞脱落が示唆される皮質部位は,MRI上で陳旧性点状出血が散在する大脳白質を覆う部位に対応しない場合も多かった.MRI所見が比較的豊富であるが,神経心理学的に障害を認めなかった1例では,認知機能と関連の深い大脳皮質にIomazenil SPECTの集積低下を認めなかった.Iomazenil SPECTにおける後部帯状回の集積低下と記憶障害との対応は良好と思われた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
対象症例数は昨年度の20例から26例と増加し,そのうち,就労しているものが11例おり,就労状況についてある程度の調査・検討が可能となった.復職・再就労といっても,職種,作業内容,仕事の負荷量等の内容は様々であり,神経心理学的評価の結果の良し悪しが直接的に就労の可否に結び付くものではなかった.神経心理学的検査による評価結果と対応させた「職業の認知的要求尺度」の項目については,さらなる検討が必要と考えられた.画像診断としては,昨年度までは,MRI,CTを中心とし,ケースによってECD SPECTのeZIS解析を追加して機能的障害部位を推定してきた.本年度は,びまん性軸索損傷の5例についてIomazenil SPECTを検討する機会を得て,MRIで可視化された病巣以外にも神経細胞脱落が示唆される皮質部位があり,とくに後部帯状回では神経心理学的所見との対応が良好であることを明らかにできた.一方で,MRIで大脳白質に病巣が可視化されても,高次脳機能障害と関連する皮質部位にIomazenil SPECTの集積低下を認めず,実施した神経心理学的検査では異常を検出できない1例もあった.この例は,脳以外の損傷による下肢の比較的軽い運動障害の後遺症があり,就労に向けての調整が行えていない.
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今後の研究の推進方策 |
外傷性脳損傷による高次脳機能障害者の就労にあたっては,受傷前の就労状況・内容ならびに本人の希望に配慮する必要があるが,現状の認知機能と仕事内容とを現実的にすり合わせ,できることから始める必要がある.認知機能の測定に用いられる神経心理学的検査としては,知能,記憶,遂行機能に対するテストバッテリーがあり,また,記憶,注意,遂行機能の特定の側面を測定する単一の課題もある.テストバッテリーも総合得点ではなく,下位検査の成績や下位検査間の成績分布に注目すると,職業の認知的要求内容と詳細に対応させることができる場合が少なくない.今後は,これまでに準備してきた「職業の認知的要求尺度」を改訂しながら神経心理学的検査との対応をより深めること,職業については復職・再就労のうち外傷性脳損傷者に適した初期段階の内容に焦点をあることに重点をおいて進める予定である.後者の観点については,昨年度,「平成22 年国勢調査に用いる職業分類」を参考として,高次脳機能障害者の神経心理学的検査の成績と職務内容との対応をつける試みを行った結果,現実的に可能な復職・再就労の候補に絞る必要が生じた.今後,1)一般就労として高次脳機能障害者がイメージしやすい作業内容,2)就労支援事業所で行われている作業内容に絞って,「職業の認知的要求尺度」を作成して,これまでに集積したケースのうち就労に成功した例で妥当性を検討し,ついで,就労の準備に応用して検討を進める予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた研究および調査のための出張が都合により困難となったため残額が発生してしまった。 研究および調査のための出張を計画的に実施する。
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