研究課題/領域番号 |
23500617
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
大木 紫 杏林大学, 医学部, 教授 (40223755)
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キーワード | 錐体路 / 脊髄 / 脊髄固有ニューロン / 頸髄症 / 可塑性 |
研究概要 |
前年度に正常被験者で、頸髄介在ニューロン上で加重を起こすtimingで、運動野磁気刺激と末梢神経刺激のpaired-association刺激を行うと、(錐体路から頸髄介在ニューロンを介し、四肢筋運動ニューロンに運動指令を伝える)間接的経路を介した効果が増強されることを確認した。24年度は、pair刺激のtimingを変えると(他の脳部位のシナプスの可塑的変化で知られているように)増強から減弱に反転すること、増強を起こすのは錐体路入力が末梢神経入力に数m秒遅れる場合であることを確認した。この結果は、錐体路から頸髄介在ニューロンへのシナプスの伝達効率上昇が生じていることを示す。脊髄内で錐体路の伝導障害を起こした場合、障害部位より高位の介在ニューロンを介した経路の効率を増強することにより、機能回復が起こせる可能性が示された。 間接的経路を介した機能回復が起こりうることを示すため、頸髄症の患者で、腕の到達運動評価と従来の評価法(JOAスコア、手の10秒テスト)との比較を行った。その結果、手の運動機能を見るJOAスコアと10秒テストは中程度の相関を示し、到達運動はJOAスコアとは相関しないものの、10秒テストとは除圧術前後とも弱い相関を示した。多重相関解析の結果、JOAスコアの術後の回復を予測するのに、到達運動を加えることが有効であることが示された。この結果は、主に巧緻運動を評価するJOAスコアの術後回復に、到達運動をコントロールする間接的経路が代替的に関与しうる可能性を示唆する。上述の可塑的変化の誘導により、手の巧緻運動も回復しうることを示すと考えられた。手の巧緻運動の客観的評価と考えられている10秒テストは、実際は間接経路の機能にも依存することがわかり、新たに巧緻運動の客観的評価法が必要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の第一の目的は、正常被験者の上肢や下肢運動に関わる脊髄介在ニューロンの存在を確認し、介在ニューロン系にシナプス効率の長期的増強を引き起こす訓練法を開発する、というものであった。この目的に関しては、すでに達成している。現在、介在ニューロンの存在に関する論文を準備しており、訓練法に関しては第35回日本神経科学学会(2012/09/21、名古屋)とNeuroscience2012(2012/10/16、New Orleans)で成果を発表した。 第二の目的は、日常的な動作を用いて患者の上肢運動機能を定量的に評価する方法の開発であったが、これに関しては一部のみ完了している。完了しているのは、腕の到達運動の解析法で、頸髄症患者の病勢評価と術後の機能回復の予後予測に有用であることが示せた。この成果に関しては、Neuroscience2012(2012/10/13、New Orleans)等で発表するとともに、現在論文を投稿中である(Neruroscience Research)。達成できていないのは、手の巧緻運動の定量的評価法であるが、これに関しても精密把握運動を解析する装置を完成させ、現在までに各年代の健常被験者と2名の頸髄症患者で記録を行っている。 最後に、脊髄障害患者の介在ニューロン系にシナプス効率の長期的変化を引きおこす訓練を実施すること、であるが、これに関してはまだ始められていない。現在行っている訓練法が、臨床現場で用いるには煩雑であると考えている。最終年度により簡便な方法を提案し、臨床応用を目指したい。 以上、一部達成できていない内容もあるが、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に行ってきたが、119,827円の次年度使用額が発生している。しかし、3月末に投稿した論文の英文校閲費が10万円程度発生しており、これを差し引けばほぼ予定額を使用した。平成25年度は、手の巧緻運動評価法の開発のための実験を継続する。特に、頸髄症患者を始めとした脊髄患者での記録を行い、方法の有用性を検討していく。また、シナプス効率の長期的変化を引き起こす訓練法を臨床現場で使用可能なより簡便なものにすべく、健常被験者での実験を行う。このためには、末梢神経の連続刺激や前庭入力を使う方法を考えている。同時に24年度までの成果を順次学会発表し、論文にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
手の巧緻運動解析のため、現在使用している3次元位置計測システムにセンサーを2個追加する。これにより、より詳細な手指運動の記録が可能になる予定である。この分研究費が使われるが、論文投稿料や英文校閲費の一部を他の研究費から出すこととし、実験のための経費(被験者謝金、実験消耗品等)、旅費(成果発表)等は計画通り使用する。
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