本研究の目的は、人工内耳の早期装用が難聴乳幼児の聴こえの状態を改善することで、児と健聴の母親(保護者)との関係を良好にさせ、その結果、児の言語獲得が促進されることを明らかにすることである。そのため研究仮説として、人工内耳の早期装用で、保護者の言語インプットの質、量、あるいは関わり方が変化・改善し、装用児の言語獲得を促進することができるということを掲げた。このような研究仮説を立てる背景は、親の言語インプットの質は、人工内耳の装用開始年齢や療育方法と共に、装用効果を決める重要な要因の一つであること、また装用児の暦年齢よりも聴こえのレベルにより保護者の関わり方が変化することが、先行研究によって示されていることによる。 最終年度は、過去2年間のデータから集めた母子関係の観察情報に基づいて、保護者(母親)の感受性と言葉かけを評価するためのスケールを作成し、これに基づいて母子遊びのデータ分析をおこなった。下に示した①~③のスケール作成においては、日本では難聴児をもつ保護者の言語行動を評価するためのフォーマルなスケールがないことから、海外で使われている資料と本研究で集積したデータを使用して作成した。スケール③は、DesJardin(2009)らが提示した言語獲得促進テクニックカテゴリーに基づいた。①保護者の感受性スケール②言語獲得を促進する言葉かけテクニックスケール(1)③言語獲得を促進する言葉かけテクニックスケール(2) 2014年2月には人工内耳装用児をもつ全国親の会で装用児をもつ親、言語聴覚士向けにワークショップを行い、このスケールに基づいて装用児への関わり方・話しかけ方についての講習を行った。 研究結果としては、聴こえが早期に改善されることで、子どもからの反応の戻りが良くなり、親の関わり方・話しかけ方に良好な変化が見られ、結果として、言語獲得を促進できるような働きかけが増加することが推測されている。
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