研究課題/領域番号 |
23500623
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
橋本 眞明 帝京科学大学, 医療科学部, 教授 (30156294)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 高濃度CO2水 / プロスタグランディン / 皮膚血流 / 筋血流 |
研究概要 |
ヒトを人工炭酸泉作成装置で作成した高濃度炭酸水(CO2濃度:1000ppm以上、30~35℃)に浸漬すると血管拡張により皮膚血流が増加する。麻酔下のウイスター雄ラットでも確認された、この血管拡張はアラキドン酸代謝阻害剤の投与で消失し、一酸化炭素合成酵素の阻害剤では影響を受けなかったことから、プロスタグランディン(PG)が関与すると推定された。そこで、30分間の浸漬直後に皮膚を採取し、 ホモジェネート中の血管拡張作用が知られるPGE1, PGE2, PGI2をELISA法で定量したところ、真水への浸漬と比べ炭酸泉浸漬でPGE2の優位な増加が確認できた。 PGE2とI2はPGH2からそれぞれの合成酵素で最終合成されることが知られている。定量的PCR法を用い、これら両PG 合成酵素の遺伝子発現レベルの差の有無を検討するため、先行実験と同様な浸漬実験により皮膚を採取、ホモジェネートから全RNAを抽出し凍結保存した。先行研究論文のラットのPGI2合成酵素、PGE2合成酵素の遺伝子情報からプローブを設計し、増幅産物が得られた。産物が注目する遺伝情報のものか否かを検討中。 一方、麻酔したラットの体毛を刈り、皮膚組織血流計測用のレーザードップラー・プローブ1個を背側腰部に紙製サージカルテープで固定。他の1個を非浸漬部の背中皮膚を切開し、皮下を通じて大臀筋表面へ固定し、皮膚血流と皮下の筋血流を同時測定した。反対側の大腿動脈へカテーテルを留置し動脈血圧を測定、両者から血管コンダクタンスを算出した。例数が十分でなく、結論は述べないが、皮膚血流の増加に加え、筋血流にも増加傾向が観察されている。 今後、実験例数を増し人工炭酸泉浸漬で浸漬部皮下の骨格筋血流への影響を確認する。さらに、皮膚全RNAにおけるPG合成酵素の発現を定量化する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近赤外線分光高度計による経皮膚的な筋血流計測結果から、炭酸泉浸漬が筋血流を増加させると考えられている。経皮的なこの計測法では、皮膚血流の増加分も含まれると考えられる。皮膚血流の増加分と筋血流の分離評価を、組織血流計ドップラープローブを皮下に挿入し直接皮下の骨格筋表面に向け計測する方法を考案した。呼吸等の動きによるノイズや、プローブリード線の弾性によるプローブチップの移動によるベースライン値の変化など、当初の予想を上回る計測障害の克服に時間を要した。最終結論を得るには例数不足ではあるが両血流を分離評価できる実験法が確立でき、おおむね当初の計画通り進んでいる。 被験者実験は、動物実験による皮膚血流と筋血流の分離評価の最終結果を確認した後に進めることが望ましい。現在、健康被験者の募集など準備段階である。 一方、皮膚血流の増加に関与すると推定されるプロスタグランディン合成酵素の遺伝情報発現の定量化は、報告されている遺伝子塩基配列からの適切なプローブ設計に多少時間がかかっている。増幅産物が目的のタンパク質であること確認でき次第、抽出したサンプルの実測が行える段階である。
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今後の研究の推進方策 |
1)プロスタグランディン合成酵素のmRNAを定量化するための最適プローブ設計を終了し、RT-PCR法により測定、遺伝情報発現と既存データの整合性について検討する。2)動物実験の例数を増し、炭酸泉浴による皮下骨格筋血流への作用の有無を確認する。3)健康な被験者を用い、人工炭酸泉浸漬実験については、2)の進捗状況と結論を確認した後、被験者実験を進めるか、変更するかを決断する。筋への影響が確認された場合には、当初の計画通り被験者実験を進める。万一、動物実験による筋への影響が確認できない場合には、被験者実験を中止し、動物実験による皮膚血流の増加機構の解析を伸展させる。皮膚におけるプロスタグランディン以外の血管拡張性媒介物質(ブラディキニン、CGRPなど)の定量によりその関与について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子解析が当初の想定よりも遅れ、それに伴う必要経費分が次年度へ持ち越しと成った。次年度研究費では、増幅産物の確認、最適な塩基配列プローブの完成、抽出サンプルの実測に関わる費用が主体となる。 動物実験では、実験用動物の購入費用に加え、同時に採取する組織の保存と処理用の薬物費用が主体となる。 また、被験者実験を留保したため、被験者への謝金分も次年度への持ち越しと成った。これらは次年度分と合わせ使用される予定である。ここでは血管制御や皮膚血流に大きな影響を与える核心部体温を計測する必要がある。被験者の行動を制限することなく体温計測可能な鼓膜温テレメトリー装置の購入を計画している。ただし、前述の通り万一被験者実験が中止となった場合には、動物実験による皮膚血管拡張メカニズムの解析を伸展させる。その場合には、動物購入費用とともに、関与する可能性がある血管拡張性媒介物質の定量費用として予算が利用される。
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