研究課題/領域番号 |
23500623
|
研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
橋本 眞明 帝京科学大学, 医療科学部, 教授 (30156294)
|
キーワード | 二酸化炭素泉 / 水治療 / 皮膚血管拡張 / 筋血管拡張 / プロスタグランディン |
研究概要 |
1)人工の単純炭酸泉浸漬中の皮膚でプロスタグランディン(PG)が介在する皮膚血管拡張の有無を検討すべく、実験用動物(ウイスター系オスラット)を用いPG合成酵素の遺伝子発現の定量的解析を試みた。2)同じく実験動物を用い、同炭酸泉浸漬中に浸漬部皮膚血管同様、皮下の骨格筋血流を増加させるか否か、皮膚と筋の血流の分離評価を行った。 1)遺伝子発現の定量的解析:設計したプローブが適切に機能していない可能性が発覚し、また、浸漬実験後の皮膚のサンプリング方法を再検討する必要がある。さらに、より安価でより効率的な遺伝子発現量の解析法の利用を検討すべく解析を一次中断した。 2)皮膚血流と筋血流の分離評価:ウレタン麻酔した動物でレーザー・ドップラー組織血流計を用い、皮膚表面と、皮下の筋膜表面にプローブを留置し、皮膚と筋の血流を同時測定した。浴槽水温はヒトの中性水温よりやや低めの34~35℃とし、水道水と人工炭酸泉を約30分毎に交換。これを2回繰り返し、再現性を確認した。同時計測した動脈血圧と心電図の結果を総合し、皮膚血管コンダクタンスを算出し、心臓の自律神経活動性を推定した。 水道水浸漬中と比較し、炭酸泉浸漬中に皮膚血流が増加し、心拍数の減少が見られ、手術に伴う皮下出血が無く、記録が安定し再現性も確認され信頼に足ると判断された6例の結果、筋血流が増加したものが5例であった。統計学的に信頼できる判断をするためには、さらに信頼に足る1、2例の実験結果が必要であるが、これまでの結果を総合すると、炭酸泉浸漬による浸漬部皮膚血管拡張と平行して皮下の骨格筋血管にも拡張が起ると考えてよいかもしれない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
皮膚血管拡張に関与するPG遺伝子解析実験:ヒトの炭酸泉浴中に見られる皮膚紅潮は血管の拡張を示唆し、人工炭酸泉を用いた入浴実験結果でも入浴後数分で皮膚血流の増加が記録されている。一般に、反応としての新規の遺伝子発現には20~30分の潜時があるとされており、浸漬部皮膚局所で数分以内に生じる血管反応に新規遺伝子発現が関与しているとは考え難い。事前に行われたPG合成酵素阻害薬を用いた実験から、炭酸線浸漬による皮膚血管拡張反応が阻害薬により消失することから、PGの関与は疑いないが、皮膚局所でのPG発現が関与するのは実験条件とした浸漬30分の後半であろうと推測し、レーザードップラー法により皮膚血管血流の増加が確認された場合の皮膚のみを採取した。一方で、ラットの毛胞に誘導性のPG合成酵素シクロオキシゲナーゼ2が多量に発現することが知られており、誘導刺激として炭酸泉浸漬のみを選択的に与える実験条件が皮膚血管反応を適切に検知できるか否かを決定すると思われる。皮膚サンプリングと浸漬実験のさらに注意深い実験条件設定の検討が必要であろう。 皮膚と筋の血流分離評価実験:非浸漬部である肩甲骨レベルの背胸部正中線付近に1cm程度の皮膚切開傷から、浸漬部の大臀筋表面に皮下を通じてドップラープローブを挿入、留置し筋血流そ計測した。実験後、通路の皮膚を切開し皮下の出血等を確認した結果、出血や血餅の存在等多くの問題点が見つかった。それらの例では、ほぼすべてで皮膚血管の反応が筋血流測定なし計測結果と異なる反応を示したり、筋血流の反応hが不安定でるなど、信頼に足る結果を示さなかった。目視確認できるファイバー内視鏡を用いた手術により血管系を傷つけることなく挿入する技術が確立され、信頼性のある計測結果が蓄積しつつあり、研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
20~30分間の炭酸泉浸漬中の皮膚血管拡張がアラキドン酸代謝カスケードの上流に作用するプロスタグランディン合成阻害薬により抑制されることから、血管拡張作用を持つことが知られているPGE2,PGI2の関与を想定しその遺伝子情報発現量の解析を試みたが、十分な結果が得られていない。理由はその非効率性にあった。標的を絞った解析は、定量性の高い解析が可能であるが、もしも結果ネガティブであった場合には、再度関与の可能性がある別の物質の遺伝情報を解析しなければ成らず、予算面でも時間的にも非効率的である。近年、極めて多くの遺伝情報発現の程度を網羅的に比較解析できるcDNAマイクロアレイ解析法が開発されたが極めて高価であった。最近、比較的安価にかつ速やかに利用できるようなったことから、本法による解析を試みる。一方で、皮膚の紅潮や皮膚血流増加は、浸漬後数分以内に開始することが明らかとなり、この早期の反応は遺伝子発現を介したものとは考えにくい。一般に筋付近のpH減少により筋収縮力は低下する事が知られているので、血管平滑筋に対する二酸化炭素や水素イオンの直接作用について皮膚血管標本を用いたイン・ビトロ実験の可能性を探るべく実験系の構築を試みる。 また、炭酸泉浸漬が皮膚血流のみならず浸漬部皮下の骨格筋血流をも増加させる可能性について、実験動物による解析をさらに進めるとともに、当初計画した、強度の筋活動後の人工炭酸泉浴が筋からの疲労物質の洗い流し促進について健康成人を用いた解析の検討も続ける。被験者実験では、炭酸泉浸漬が筋活動後の筋硬度回復を促進する可能性について筋硬度計による計測を計画しているが、同時により信頼性の高い筋赤外線分光法による筋血流の解析も試みる。動物実験の結果と合わせると、炭酸泉浴の筋血流への効果が明確になると考えられる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本実験系で基礎的な研究結果の蓄積があるウイスター系雄ラットと高濃度二酸化炭素水(人工単純炭酸泉)を用いて以下の解析を進める。 1)炭酸泉浸漬により浸漬部皮膚血管拡張が確認される条件下で、同時に皮下の骨格筋血管が拡張するか否かを麻酔下での動物実験で確認する。前年度に確立した方法(皮下を通じ、浸漬部皮下の筋表面に留置可能な特殊プローブを用いたレーザードップラー組織血流測定法)により、肉眼で確認される皮下出血無く筋血流の測定を続ける。皮膚血流、および動脈血圧との同時計測で、皮膚血管、筋血管への人工炭酸泉浸漬の効果を確認する。次年度予算では、実験動物費用が本実験の主要な経費である。 2)麻酔下動物を人工炭酸泉または同温度の水道水に30分浸漬。浸漬終了直後に浸漬部皮膚をサンプリング、-80℃凍結保存の後、総RNAを抽出し、マイクロアレイ解析法により全遺伝子の相対的発現量について、両試料水を比較する。血管拡張性が知られているプロスタグランディンファミリーを中心に、両水間で差のある者を検索する。次年度予算の大部分はこの測定費用に向けられる予定である。 3)本被験者実験は、動物実験の結果、筋血流への有効な作用が確認された場合に実施する。被験者に比較的高強度の筋運動を課し(10分で100回の爪先立ち運動を検討)、運動直後から10~20分人工炭酸泉、または同温度の水道水に下腿を膝まで浸漬。運動後の筋硬度の減少過程、血中乳酸濃度の減少過程に与える人工炭酸泉の下腿浸漬効果について同温度の水道水浸漬の効果と比較検討する。筋硬度の減少や血中乳酸濃度の減少が促進されるか否かにより、筋血管の拡張可能性を検討する。計測器が利用可能(借用可能)な場合には、浸漬中の筋血流を近赤外線分光法によリ検討する。 実験は、必要な学内の倫理委員会の審査と承認を経て行い、被験者実験では、被験者への十分な説明と同意を得て行われる。
|