高濃度二酸化炭素(CO2:1000ppm以上)を含む人工の療養温泉(人工CO2泉)に浸された皮膚では、血管拡張に伴う血流増加が観察される。浸漬部皮下の骨格筋血管への効果を検討すべく、麻酔下ラットを用い皮膚と骨格筋の血流、動脈血圧、皮膚、体温などを測定しつつ約35℃の水道水(真水浴)と人工CO2泉(CO2泉浴)に約30分ずつ浸漬した。その結果、皮膚血管に対して従来通の効果が観察された群では、骨格筋血管に対しても皮膚同様、真水浴と比べCO2泉浴時には血管拡張が確認された。 また、CO2泉浴時の皮膚血管拡張の一部が、皮膚で合成される血管拡張性のプロスタグランディン(PG)の媒介による可能性が明らかとなり、皮膚組織中のPGE1、PGE2、PGI2の定量によりPGE2の関与が示唆された。そこで、それぞれのPG合成に関与する最終酵素の消長を検討すべく、まずは、酵素量の指標としてmRNAの網羅的解析を行った。約30分の真水浴、CO2泉浴直後に採取した皮膚から抽出・精製したtotalRNAをcDNAマトリクスチップを用いて相対的発現量を定量した。各浴水3例ずつの結果では、真水群、CO2泉群に顕著な違いは見つからなかった。例数の問題はあるものの、30分の浸漬時間を考慮すると、酵素量の消長が影響するとは考え難い。各酵素の活性化の違いに差がある可能性が示唆された。 被験者実験でもCO2泉浴による皮膚、骨格筋の血流増加作用が示され、血管拡張を示唆する報告が増えつつある。理学療法における水治療やスポーツ科学分野への応用をめざし、CO2泉浴による筋疲労回復への影響評価のパイロット実験を開始した。当初予定した、下腿筋の疲労モデルでは椅子座位での大腿部圧迫が避けられず血流動態の測定結果が安定しないことが判明した。前腕握力筋での疲労モデル作成に変更し、近赤外線分光法と瀉血法の併用による筋血流測定と、筋疲労回復への効果の検討が続いている。
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