本研究は失語症を有する慢性期脳卒中患者を対象に反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Trans Magnetic Stimulation; rTMS)の失語症改善効果を検証すること,および近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy;NIRS)の手法を用いてrTMS治療期間前後における言語課題遂行中の脳活動パターンの変化を客観的に評価することを目的とし,最終年度も症例を集積しながら上述の検討を継続した.その結果,運動優位型失語症患者7症例において右大脳半球のブロカ野相同部位に運動閾値の90%強度,1Hz,900発の低頻度rTMS計10セッションを有害事象なく施行できた.定性的評価においては介入後に自覚的な呼称の改善,介護者の観察における自由会話での発話量増加,ジャルゴンの減少などの改善を認める者があった. 100単語呼称テストの正答率はrTMS前が67.3±18.6%(平均±標準偏差),rTMS後が72.0±19.6%であり,介入前後で統計学的に有意な改善は認めなかった.100単語呼称テストを構成する高頻度語,低頻度語,標準失語症検査呼称課題の各単語群においても統計学的に有意な改善は認めなかった.光トポグラフィ装置(ETG-100,日立メディコ)を用い視覚性呼称課題遂行時のブロカ野周辺とブロカ野相同部位周辺の脳活動を計測したところ,rTMS介入前の脳活動の左右バランスを示す側化指数は右側優位の脳活動を示す者が多かった. rTMS介入後にも側化指数は右側優位の脳活動を示す者が多く,介入前後の側化指数の変化に一定の傾向は見いだせなかった.
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