本研究の目的は、バイオメカニクス的手法と電気生理学的解析およびシミュレーション技術を用いて、筋収縮および関節運動を入力値とした神経系の応答を明らかにし、痙縮に対する次世代の理学療法評価法および治療法の開発であった。当該年度では、バイオメカニクス的変数を用いて神経系の応答を推定すること、機械的なエネルギーを入力値とした神経系の応答を明らかにすることを試みた。 カエルの縫工筋に対し、マニュピュレータによる機械的伸張を加えた場合における求心性神経線維の応答を検討した結果、求心性神経線維の発火時間および発火回数ともに筋の力学的特性である伸張時間、伸張長、伸張速度、伸張加速度、質量および弾性率を用いることで予測できることがわかった。このことから、筋紡錘は伸張長や速度だけでなく、複数の力学的特性値の変化を検出しており、その結果、求心性神経における活動電位の周波数特性を変化させている可能性が示唆された。 ラット後肢筋群に対する温熱および寒冷刺激が求心性神経線維の応答に及ぼす影響を検討した結果、長時間寒冷刺激を加えた方が短時間寒冷刺激を加えた場合より求心性神経線維の発火頻度が減少することが分かった。また、温熱刺激は運動速度が速い場合における求心性神経線維の発火頻度を増加させることが分かった。このことから、適切な機械的エネルギーを選択することで求心性神経線維の活動を制御できることが示唆され、痙縮などの筋緊張異常に対する治療法に応用できると考えられた。 研究期間全体を通じて、異なる手法を組み合わせることで運動を治療手段とする理学療法を入力値とした神経系の応答を評価することが可能となり、機械的なエネルギーが筋緊張異常に対する治療法に応用できると考えられた。
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