筋の萎縮に対する対抗策として代表的なものに、運動と栄養摂取がある。本研究では、運動と栄養摂取を用いた筋萎縮対抗策を開発することを目的とした。 運動による筋萎縮回復過程とそのメカニズムを検討した。マウスを対象とし、尾部懸垂によって後肢筋を萎縮させた後、オペラント学習法を用いた立ち上がり運動を1週間行うと、ヒラメ筋において筋萎縮回復促進効果が見られ、筋線維あたりの筋核数が有意に多かった。さらに、運動による萎縮筋の筋核の増殖は、運動開始後48時間で増加しており、増殖核は筋細胞膜外にあることがわかった。運動すると、まず外来の細胞核が増殖し、そのあと既存の筋細胞に融合することによって筋核の増加が起こっていることが示唆された。また、筋萎縮からの回復を機能的に評価するための小動物用筋力測定装置を開発し、測定値の再現性が高いことを示した。この装置を用いて、萎縮筋において、運動強度(筋収縮強度)による筋損傷と筋力回復の関係を検討している。 当初の計画では、動物実験で運動と栄養の筋萎縮抑制効果を検討する予定であったが、栄養摂取を制御するとトータルの食事量が減少し、筋萎縮からの回復が妨げられたので、計画を繰り上げて、運動と栄養の筋萎縮抑制メカニズム解明のための培養実験を行った。まず、骨格筋培養細胞を用い、電気刺激(筋収縮)停止による廃用性筋萎縮モデルを作成した。電気刺激停止48時間後、タンパク質の分解機構として知られているユビキチンプロテアソーム系とオートファジーリソソーム系が活性化していた。電気刺激停止1時間後では、タンパク質合成と分解の両方が高まっていることがわかり、タンパク質分解によるアミノ酸が、タンパク質合成を高めている可能性が示唆された。
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