研究課題
リハビリテーション医療は、現在、多くの専門部門からなる多職種のスタッフが参画するチームアプローチとして、日常的に広く行われている。現在のリハビリテーションの進め方は,Dsability-oriented rehabiritationということができる。すなわち、基本的には運動機能を評価することからスタートし、その劣った機能を集中的に強化することを重視するものであり、急性に発症する疾患に対しては非常に有効である。しかし、緩徐進行性の神経変性疾患においては,十分な効果の検討はなされていない。とりわけ、精神的ストレスの影響が強いパーキンソン病においては効果は限定的といえる。本研究は,我々がパーキンソン病のために独自に作成したリハビリ専用のプログラム (Mentality-oriented rehabilitation) の、種々の神経難病に対する効果を様々な角度から検討する。 国立病院機構徳島病院において、パーキンソン病を対象として平成21年5月より専門的リハビリテーションがスタートしている。パーキンソン病に対しては、このリハビリテーションは運動症状・非運動症状ともに著明な改善が得られている。本研究ではさらに他のパーキンソン病関連疾患や多系統萎縮症の患者に対しても行い、その効果がどの程度あるのかを様々な評価スケールを用いて検定する。また、このリハビリテーションがそれぞれの疾患に対してどの程度効果があるのか、さらには効果がある場合にはいつまで持続するかを検討する。コントロールとしては、外来通院で従来の方法でリハビリを受けている同じ疾患の患者を同様のスケールで評価する。最終的には、このリハビリテーションを行うことで病状の進行を抑制しうるか否かを、長期間の観察で明らかにする。以下に述べるように、本研究成果から多くの新たな知見が得られている。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度は主として孤発性パーキンソン病の患者を対象にして、リハビリテーションを実施した。パーキンソン病患者に関しては、入院時に伴う非運動症状の評価、服用している抗パーキンソン病薬の副作用の有無についても評価する。またレボドーパを内服している患者については、必要に応じて、血中のレボドーパ濃度の測定を行い、必要最小限の抗パーキンソン病薬を内服するよう調整を試みた。平成22年度から23年度の間にリハビリテーション入院を行ったパーキンソン病患者は合計121名に上っている。 これらの患者について、神経内科専門医、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)および言語聴覚士(ST)がそれぞれ次のスケールを用いて実施する。神経内科医: UPDRS part 1-4理学療法士(PT) (1)歩行: スピード、歩幅、歩数 (2)筋力: 大腿四頭筋(左右)作業療法士(OT) (1)握力(左右) (2)STEF (3)SDS (4)IADL (5)ADL(BI)言語聴覚士(ST) (1)FAB (2)MMSE (3)口唇運動: 開口「あ」、横引「い」、突出「う」(4)舌運動:突出、右、左 (5)咬合力 (6)両唇閉鎖力 (7)嚥下:反復唾液飲みテスト、改定水飲みテスト (8)発声 持続「あー」、早口「ぱ」、「た」、「か」、「ぱたか」評価は入院前、入院後4週間、退院後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年の時点で行った。その結果、ほとんど全ての項目で、入院後4週間、退院後1ヶ月、3ヶ月には改善が認められた。この成績は以下に述べるように、順次、各種の学会で発表すると共に、学術誌に発表を行っている。 また、平成22年度から23年度の間にリハビリテーション入院を行ったパーキンソン病患者のうち、7名の家族性パーキンソン病患者が含まれていた。これらの患者に関しては、文書による同意を得た上で、遺伝子解析を実施した。その結果、3名のパーキン遺伝子の欠損が認められた。
平成24年度にはパーキンソン病とともに進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症や、多系統萎縮症の患者について、同様のリハビリテーションを行い、その効果を検証する。コントロールには外来通院および在宅で通常のリハビリ(Disability-orientated Rehabilitation)を実施している同様の神経疾患の患者を用いる。コントロールにもリハビリの開始6ヶ月間は薬物療法に変更がなされていない患者を対象とする。その効果を1年間にわたり追跡し、このリハビリテーションがそれぞれの疾患に対してどの程度効果があるのか、さらには効果がある場合にはいつまで持続するかを統計学的に検討することを予定している。 平成22年度から23年度の間にリハビリテーション入院を行ったパーキンソン病患者は合計121名でそのうち、3名のパーキン遺伝子の欠損が認められたことから、平成24年度も家族性パーキンソン病の遺伝子検索を行っていく予定である。とくに、パーキン遺伝子欠損症(PARK2)患者は孤発性パーキンソン病患者と若干に症状が異なることから、PARK2患者についても、より効果的なリハビリテーションメニュ-を作成する予定である。 本研究は、我々の考案したリハビリテーションをパーキンソン病関連疾患や多系統萎縮症に対しての効果を短期・長期間にわたり検証するものであり、その成果は上記と同様の媒体を通じて社会・国民に発信する予定である。成果の発表に関しては平成23年度には和文総説1編、平成24年度にも和文総説1編の発表を学術誌に行った。さらに、これまでに得られた成績は第53回日本神経学会学術大会(平成24年5月22日-25日)において4題の演題の発表を予定している(有井敬治、川村和之、谷口百合、水田理沙)。また、第66回国立病院総合医学会(平成24年11月16日-17日)には9題の演題の発表を予定している。
平成22年度から23年度の間にリハビリテーション入院を行ったパーキンソン病患者合計121名のうち、73名のパーキン遺伝子の欠損が認められたことから、平成24年度も家族性パーキンソン病の遺伝子とくにパーキン、Klokin 1、PINK1、SNCA、DJ-1遺伝子の検索を行っていく予定である。第53回日本神経学会学術大会(平成24年5月22日-25日)において4題の演題の発表を、第66回国立病院総合医学会(平成24年11月16日-17日)の9題の演題の発表の旅費の一部に研究費の使用を予定している。
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Human Molecular Genetics
巻: 21 ページ: 991-1003
Acta Neurol. Belg
巻: 111 ページ: 188-194