研究課題/領域番号 |
23500640
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
狩野 充浩 東北大学, 歯学研究科(研究院), 大学院非常勤講師 (10419236)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 嚥下 / 神経機能 / 感覚刺激 |
研究概要 |
嚥下機能は重要な機能の1つである。しかし現在、高齢者の誤嚥性肺炎が問題視されており、誤嚥性肺炎の患者の肺から口腔内細菌が検出されるなど歯科においても重要度の高い問題となっている。本研究では、嚥下反射の評価法の確立と嚥下に対する病的変化(加齢)と味覚、嗅覚、温度感覚など各種感覚刺激の嚥下反射改善効果を体系的に評価するために、誤嚥ラットモデルを作成し、咽頭喉頭領域の知覚や運動に関わる舌咽神経や迷走神経の入力や出力に関わる神経節内や嚥下の制御に関わる大脳、脳幹の変化について明らかにすることを目的としている。しかしながら、現在にいたるまで正常ラットの咽頭粘膜や咽頭筋の神経支配については報告が少なく、ほとんど明らかではない。したがって、今年度では、まず咽頭各部の粘膜における感覚神経の分布や由来について調べた。実験には正常ラット5匹を用いた。動物を麻酔後、Zamboni固定液で潅流し、鼻腔、口腔、咽頭、喉頭及び上位の食道,気管を一塊に取り出し、凍結切片作製後、免疫染色を行った。その結果、神経ペプチドであるCGRPやPACAPを含む神経線維が咽頭粘膜に豊富に観察された。これらの神経線維は粘膜固有層に数多く認められ、それらの一部は上皮内に侵入していた。CGRPやPACAPを含む神経線維は咽頭鼻部と喉頭部の境界や喉頭蓋の喉頭側粘膜で最も多く観察された。また、これらの神経線維は味蕾の直下にも分布していた。咽頭鼻部と喉頭部の境界部にトレーサーを注入した結果、迷走神経上神経節や舌咽神経節、さらに迷走神経下神経節の吻側部における感覚ニューロンがCGRPやPACAPを含む神経線維の由来であることが明らかとなった。今後、誤嚥ラットモデルを作製し、咽頭粘膜におけるCGRPやPACAP或いは感覚刺激に対するセンサーの分布の変化を調べる予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで正常ラットの咽頭粘膜における感覚神経の分布や由来について明らかにしてきた。免疫染色によりpituitary adenylate cyclase-activating polypeptide(PACAP)を含む感覚神経の分布を咽頭粘膜で調べた結果、今年度までの研究で咽頭と喉頭及び口腔との境界に、これらの感覚神経が豊富であるという知見が得られた。またPACAPを含む神経線維の由来を、逆行性軸索輸送によるトーレーサー実験により明らかにした。トーレーサーは舌咽神経節及び迷走神経上神経節の小型から中型の感覚ニューロンに認められた。しかしながら迷走神経下神経節ではまれであった。これらのニューロンを含む切片に間接蛍光抗体法を用いて免疫染色を行うと、多くの咽頭粘膜を支配しているニューロンにPACAPの反応が観察された。以上の結果から、咽頭粘膜に認められたPACAPを含む神経線維の少なくとも一部は、舌咽神経節及び迷走神経上神経節由来であると考えられた。嚥下障害の原因の一つとして、感覚神経の老化や疾患による、感覚神経の変性などが考えられる。本研究の過程で観察されたPACAPを含む神経線維と誤嚥との関係については、さらなる検討が必要とされる。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度においては、さまざまな刺激に対するセンサーの分布を咽頭粘膜で明らかにすることにより、嚥下障害の原因についてさらに詳細な検討を行ない、誤嚥モデル動物の作成のための一助にする予定である。具体的にはカプサイシンレセプターであるvanilloid receptor subtype 1 (VR1, TRPV1)、52℃以上の高温度に対するセンサーであるvanilloid receptor subtype 1-like receptor (VRL-1, TRPV2)、酸のセンサーであるASIC3などを含む感覚神経の分布を咽頭粘膜で調べる。また、これらのセンサーを含む神経線維の由来を、逆行性軸索輸送によるレーサー実験により明らかにする。トーレーサーは主に舌咽神経節及び迷走神経上神経節の小型から中型の感覚ニューロンに限局すると考えられるが、今後は脊髄神経節においても、トレーサーの分布が認められ科か、否かについても検討を加える。その後、切片に間接蛍光抗体法を用いて免疫染色を行う。さらに、これらの神経の変性が生じるような処置を行うことにより、誤嚥モデル動物を作成することを考えている。例えば、幼弱なラットにカプサイシンを投与することによりTRPV1を含む神経線維を変性させたり、TRPV2の阻害薬を投与した動物において、誤嚥の程度を確認し検討を加える。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度については・咽頭、喉頭部のさまざまな刺激に対する感覚センサーの分布とそれらの加齢による変化を明らかするための、組織標本の作製に関わる器具、試薬類、免疫染色用抗体の購入・誤嚥モデル動物の作成方法を検討するための実験動物(ラット)と関連する実験器具類の購入 等の用途に使用する計画である
|