研究課題/領域番号 |
23500642
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
飯塚 潤一 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 教授 (90436288)
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研究分担者 |
岡本 明 筑波技術大学, その他部局等, 名誉教授 (10341752)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 視覚障害者 / ウェブサイト / ユーザビリティ / アクセシビリティ / NASA-TLX / 心的負担 |
研究概要 |
視覚障害者がウェブサイトを操作する際に感じる心的負担を評価できる手法を文献およびヒアリング調査した。健常者を対象にした心的負担については書籍および文献も多数あるが,視覚障害者を対象にした心的負担に関する情報は,国内外の論文,および学会発表も見つけられなかった。そこで,山梨盲学校,ユーアイズ・デザイン(ユーザビリティ評価の専門会社)を訪問し意見交換を行った。その結果,探したい情報がウェブサイトで見つからないなど負荷の大きい作業は,視覚障害の有無にかかわらず大きな心的負担を感じさせ,その大きさは個人差が関係する,という結論が得られた。次に,心的負担を評価する手法であるNASA-TLXは,心理学の分野ではすでに一般的手法として認知されているが,さらに簡便な評価手法がないか,また,NASA-TLXの評価チャートを改良できるかどうか検討した。特に,パソコン操作は身体的負担が少ないので,NASA-TLXの6つの下位尺度である"身体的要求"は項目としてほかの尺度に比べ重要でないのではないか,また"タイムプレッシャー"と"フラストレーション"は重複しているのではないか,と仮説を立てたが,文献調査や試行的実験の結果からは必ずしもそうではなく,引き続き改良を検討するものの,現行の評価方法を用いて研究を進める。 本研究での実験中の実験協力者の様子をより多角的に分析するため,"録画/録音システム"の開発を行った。これは,(1)被験者のパソコン操作の様子の録画,(2)ディスプレイ画面のウィンドウや注目点の遷移状態の録画,(3)音声ブラウザの出力する合成音声の録音,(4)パソコン操作時の被験者の発話の録音,という4種類のデータを同時に収録できるものである。同種のシステムはこれまで学会などでも紹介されたことがない画期的なシステムである。デジタル録画できる仕様のため,実験時の様子を後日詳細に分析することが可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では,できるだけ早く"録画/録音システム"の開発を行い,視覚障害者を被験者にして,ウェブサイトを使って操作の課題などを抽出する予定であった。しかし,発注の遅れと,録画データをデジタル処理する技術的問題の解決に時間がかかり,被験者を使った具体的な実験を進めることができなかった。しかし,前述の"研究実績の概要"でも述べたように,(1)被験者のパソコン操作の様子の録画,(2)ディスプレイ画面のウィンドウや注目点の遷移状態の録画,(3)音声ブラウザの出力する合成音声の録音,(4)パソコン操作時の被験者の発話の録音,という4種類のデータを同時に収録できる,特に録画の画質をデジタルデータ化処理できる"録画/録音システム"という画期的なシステムを開発できた意義は非常に大きい。機器開発の代わりに,23年度は実験以外の文献調査や専門家との意見交換などを行った。文献調査や意見交換は研究期間全般を通じて行う予定であり,それを23年度に前倒しして集中的に進める形になったので,その成果は,24年度以降進める実験に対する有益な情報となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究申請時に立案した研究内容および計画に大きな変更はない。具体的には,(1)視覚障害者にとってのウェブ・ユーザビリティに関する評価方法の確立,として,(1)NASA-TLXが視覚障害者のユーザビリティを正確に評価できているか明らかにする。(2)正確で,簡便な評価手法がないか調査・評価する。 これまで,視覚障害者の心的負担に関する研究はほとんどないので,基礎的研究として(1)については,次年度重点的に研究を進める。それらを基に,(2)視覚障害者にわかりやすいウェブサイトの構造の解明とユーザビリティガイドライン策定,として,(1)視覚障害者にとって使いやすいコンテンツの配置や階層構造を明らかにする。(2)視覚障害者のためのウェブ・ユーザビリティガイドラインを策定する。 まずは,視覚障害者にとってのユーザビリティガイドラインを策定するが,それにとどまらず,晴眼者にも使いやすいユニバーサルデザイン的なものを目指していく。(3)国内外の最先端研究状況の把握,は引き続き行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度は,前述のとおり,"録画/録音システム"の開発に研究費の大部分を使用したが,次年度以降は,試行実験から仮説を立案し,それを元にした疑似的なウェブサイトの試作を行う。まず,その制作費を計上している。なお,今年度予算に対し,残額は528円である。この額はほぼ予定通り研究が遂行されている結果であり,誤算範囲と考える。 ページ内に配置する情報が少ない一方階層が深いもの,逆にページ内に配置する情報を多くする代わりに階層が浅いもの,フレームを分割したものやそうでないもの,など,晴眼者にとって見やすい通常のサイトとは違って,スクリーンリーダーが読み上げる合成音声だけが情報入手の唯一の手段である視覚障害被験者にとってわかりやすいサイト構造をいくつか制作する。 次に,それらを使っての評価実験を積極的に行っていく。被験者への謝金は今年度から計上したものである。 一口に視覚障害のある被験者と言っても,視覚障害になった時期が先天的か後天的か,パソコン操作のスキルが高いか初心者か,などさまざまであるので,できるだけ多くのデータを収集し,信頼性の高いデータの収集に努める。 また,その成果を国内外に発表するための費用も計上している。なお,学会出張は"今後の研究の推進方針"に記載した通り,情報収集も兼ねている。
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