研究課題/領域番号 |
23500642
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
飯塚 潤一 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 教授 (90436288)
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研究分担者 |
岡本 明 筑波技術大学, 名誉教授 (10341752)
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キーワード | 視覚障害者 / ウェブサイト / ユーザビリティ / アクセシビリティ / NASA-TLX / 心的負担 |
研究概要 |
24年度までの研究で,1“視覚障害者は,目で見ることができない分,記憶力が良い”と言われてきたが,記憶力評価からは,晴眼者と比べ有意な差は見られないこと,2“視覚障害者は情報入手速度が遅くならざるを得ないので,我慢強い”とも言われてきたが,心的負担の代表的手法NASA-TLXでの評価からは晴眼者と同様,ウェブサイト検索で必要な情報を見つけられない場合,大きな心的負担を感じていること,3“一画面に表示される情報が多いと,その情報の把握が難しいので画面に表示する情報は少なく,階層は深くても良い”とされてきたが,そのようなサイト構造では現在位置を把握できなくなり,晴眼者以上に心的負担が大きくなること,など興味深い結果を明らかにすることができた。 25年度は実験協力者(特に晴眼者)を増やして,全盲者は9名,晴眼者は13名で実験を行った。年齢・パソコン歴など実験データに影響を与えそうなプロフィールはほぼ同等である。統計処理をおこなっても信頼性の高い結果が得られると判断し,“課題として提示した情報を見つけるまでの時間”と“NASA-TLXの心的負担の数値”との関係を調べた。その結果,相関係数は,全盲者では0.90,晴眼者では0.90,といずれも極めて高いことがわかった。これは『検索時間がかかる課題ほど,全盲者も晴眼者と同じように心的負担を感じる』ことを意味しており,視覚障害者のウェブサイトにおける心的負担を数値化することができたことになる。 研究を遂行する中で着目したLOSTNESS(損失度)については,先行研究で提示された定義式を録画データと突き合わせながら精査したが,特定のウェブページで長時間滞留している理由が,熟考・熟読しているのか,または迷っているのか,を明確に切り分けられていないことが明らかになった。現在,定義式の改良を試みており,ウェブページ毎の評価指標に使えないか検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
統計処理をおこなっても,ある程度の信頼性が得られる実験協力者数を集めるのに時間がかかり,その結果として得られたデータの分析に後れを生じ,25年度末までに学会発表・論文投稿には至らなかった。 25年度で,記憶力,疑似サイトでの検索時間,心的負担を測定し,全盲者および晴眼者での実験データをすべて取得できたと考えている。“研究実績の概要”で述べたように,1“全盲者と晴眼者の記憶力の違い”,2“課題として提示した情報を見つけるまでの時間”と“NASA-TLXの心的負担の数値”との相関,については論文投稿・学会発表できるレベルの成果が得られた。26年度はデータがまとまったものから早急に論文投稿・学会発表を行う予定である。 これに加えて,研究の中で新たに着目したLOSTNESS(損失度)は,検索時間,心的負担の値と組み合わせることで,ウェブサイトのウェブページ毎の評価指標として使える可能性があると考えている。現在,LOSTNESSを評価する定義式の改良を試みており,これについてもあわせて論文投稿・学会発表できるよう検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究申請時に立案した研究内容および計画に大きな変更はない。 1.視覚障害者にとってのウェブ・ユーザビリティに関する評価方法の確立:25年度の実験から,心的負担を計測する代表的手法であるNASA-TLXが,全盲者および晴眼者のウェブサイトの使いやすさの評価手法としても十分使えることがわかった。“現在までの達成度”で述べたように,1“全盲者と晴眼者の記憶力の違い”,2“課題として提示した情報を見つけるまでの時間”と“NASA-TLXの心的負担の数値”との相関,については論文・学会発表原稿を執筆中である。これに加えて研究の中で新たに着目したLOSTNESS(損失度)がウェブサイトのウェブページ毎の評価指標にできないか,得られたデータを基に現在,定義式の改良を試みており,これについてもあわせて論文投稿・学会発表できるよう検討中である。 2.視覚障害者にわかりやすいウェブサイトの構造の解明とユーザビリティガイドライン策定:記憶力,疑似サイトでの検索時間,心的負担,さらにできればLOSTNESSを使って,全盲者・晴眼者ともに心的負担が小さくなるようなウェブサイト構成はどのようなものか,を学会などで提言する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
論文投稿および学会発表を予定していたが,実験データの精度を高めるために年度末まで実験を行ったため,論文投稿・学会発表に要する経費が次年度使用額となった。 “今後の推進方策”にも説明したように,26年度はデータがまとまったものから論文投稿・学会発表を行い,新たに着目したLOSTNESSについては早急にウェブページの使いやすさを評価できる定義式を導出し,論文投稿・学会発表を行う。次年度使用額はこれらに要する経費に充てる予定である。
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