本研究では,階層構造やコンテンツの配置を変えたサイトを制作し,視覚障害者のウェブ検索における晴眼者との心的負担の違いを明らかにする。また,検索の際の迷いがどのように心的負担に影響しているか調査し,迷いを数値化する。これらから視覚障害者にとってわかりやすいウェブサイトはどうあるべきかをまとめる。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果として,まず,評価環境の整備を行った。実験協力者の様子を多角的に分析するため,“録画/録音システム”の開発を行った。①実験協力者の操作時の録画,②ウィンドウや注目点の遷移状態の録画,③音声ブラウザの合成音声の録音,④実験協力者の発話の録音,の4種類を同時に収録できるシステムである。これにより実験協力者がウェブサイトのどこで迷い,滞留しているのかを記録することができた。次に,心的負担の代表的評価手法であるNASA-TLXを,視覚障害者向けに,評価基準の説明を点訳し,評点も口頭で答えやすい方法に改良した。さらに,音声ブラウザで使用できる記憶力測定ソフトウェアを開発し,全盲者と晴眼者の短期記憶力に差があるとは言えないという結果を得た。 最終年度には,視覚障害者・晴眼者とも,検索時間と心的負担の間には強い相関があることを確認した。さらに,視覚障害者は晴眼者に比べて検索に長時間を要するが,階層構造の違いに対する心的負担の値と傾向は,晴眼者のものと似ているという結果を得た。すなわち,検索時間がかかっても心的負担が同程度ということは,視覚障害者は長時間の検索に対する耐性が晴眼者に比べて強く,我慢強いと言える可能性がある。 また,検索時間がかかるのは,情報を熟読しているためか,迷っているためか,を判断するLOSTNESS(損失度)に関する定義式を新たに提案した。これを実際の検索データに適用し,ウェブ検索での「迷い」をより実際に近く判定できることを確認できた。
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