研究課題/領域番号 |
23500658
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
鈴木 寿 中央大学, 理工学部, 教授 (10206518)
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キーワード | 視覚障害者支援 / ステレオ視法 / 空間認識 / 視覚系 / 聴覚系 / 触覚系 / 情報伝達速度 / 情報縮約 |
研究概要 |
従来、視覚障害者への支援を目指し、ステレオ視法を用いた空間認識システムについて種々研究がなされており、空間の高解像度な三次元情報をできる限り損失なくユーザへ投入することが試みられてきた。だが、人間の聴覚系や触覚系の情報伝達速度は視覚系のそれに比べて格段に遅いので、いかに高解像度な情報をユーザに投入してもユーザが空間を正確に認識できるには至っていない。本研究は逆転の着想により、空間の三次元情報の中からユーザが真に必要とする情報のみを抽出し、触覚や聴覚などの比較的低い分解能に適合した一次元情報へと効果的に縮約することによりユーザに三次元空間を高い信頼度で認識させることが可能となる新たな視覚障害者用空間認識装置を創出することを目的としている。 特に鉄道駅のプラットフォームにおける接触・転落事故などの防止を意識し、誘導用ブロックの表面形状、プラットフォームの縁端、電車の進入などを高い信頼度で検出するべく、通常の白杖をやや短くした物の先端部に二個のカメラが取り付けられた形状を工業用内視鏡を二本束ねることによって実現したステレオ撮像装置を試作し、三次元映像を積極的に公開したところ、精密加工技術を有する企業からの協力が得られるに至り、直径1.7cmおよび長さ22cm強の細長い円筒で、先端側の半分が放熱しやすいようにアルミニウム、また把持側の半分が断熱しやすいようにステンレスからなり、先端部の側面には鉛筆の芯の太さ程度の超小型レンズが2個埋め込まれCMOS撮像素子が後置されているコンパクトなステレオ撮像装置を新たに開発できた。さらに、対象物と上記ステレオ撮像装置との間の距離を高速・高精度ステレオ視法により算出する機能を、通常のPC上に実装したうえで、視覚障害者用空間認識装置の総合的な性能向上をはかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
鉄道駅のプラットフォームにおける接触・転落事故などを防止するためには、ユーザが定位誤りを起こさないように空間認識できるだけではなく、(a)誘導用ブロックの表面形状、(b)プラットフォームの縁端、(c)電車の進入、などが高い信頼度で検出できる必要がある。ステレオ撮像装置の第一号試作機は、当初に計画していた両端に二個のカメラが設置された形状ではなく、小型な撮像素子を内蔵する内視鏡を二本束ねることにより通常の白杖をやや短くした物の先端部に二個のカメラが取り付けられた形状である。これは上記(a)や(b)などを比較的「近」距離から高い信頼度で検出するのに適した形状であり、スピンオフとして工業・医療用の三次元「直」視鏡としても活用できる。また、コンパクト化を目指した第二号試作機の先端部の側面には鉛筆の芯の太さ程度の超小型レンズが2個埋め込まれ、CMOS撮像素子が後置されている。これは上記(b)や(c)などを比較的「遠」距離から高い信頼度で検出するのに適した形状であり、スピンオフとして工業・医療用の三次元「側」視鏡としても活用できる。 また、当初はハードウェア化が想定されていた独自の高速・高精度ステレオ視法の改良も良好に進み、通常のPC上でさえ毎秒10~30フレーム程度のステレオ画像処理が可能になった。 なお、当初計画との相違はステレオ撮像装置と振動器とを一体化していないことであるが、研究途中で上記のようなハイエンド応用が見込めたため、ステレオ撮像装置上で二個のカメラ間の距離を劇的に狭めた代償として振動に弱くなったことから、ステレオ撮像装置と振動器とは一体化しないほうが良いと判断するに至った。 上述のように、総合的には当初の計画以上の成果が得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に当たる平成23年度に開発したステレオ撮像装置の第一号試作機は、小型な撮像素子を内蔵する内視鏡を二本束ねることにより通常の白杖をやや短くした物の先端部に二個のカメラが取り付けられた形状であった。これは、特に鉄道駅のプラットフォームにおける接触・転落事故などの防止を意識した用途において、(a)誘導用ブロックの表面形状、(b)プラットフォームの縁端、などを比較的「近」距離から高い信頼度で検出するのに適した形状である。工業・医療用の三次元内視鏡へのスピンオフとしては「直」視鏡に分類される。 二年目に当たる平成24年度に開発した第二号試作機はコンパクト化を目指した物であり、直径1.7cmおよび長さ22cm強の細長い円筒で、先端部の側面には鉛筆の芯の太さ程度の超小型レンズが2個埋め込まれ、CMOS撮像素子が後置されている。これは、特に鉄道駅のプラットフォームにおける接触・転落事故などの防止を意識した用途において、上記(b)や(c)電車の進入、などを比較的「遠」距離から高い信頼度で検出するのに適した形状であり、工業・医療用の三次元内視鏡へのスピンオフとしては「側」視鏡に分類される。 ステレオ撮像装置の出力情報を処理する際に、スリット状窓内の奥行の平均値はスリットの長軸に沿って奥行の任意分布を平滑化する傾向にあり、この性質は都市的空間においてステレオ撮像装置(仮想的に無限にのびる短い白杖)を走査的に扱うことにより線状構造物の縁を検出することを容易にすることから、これまでの二年間の研究に基づき、高速・高精度なステレオ視法の探究もさることながら、扱いやすいステレオ撮像装置の開発こそが実用化へ向けての鍵となることがわかってきた。 最終年度に当たる平成25年度には、残る可能性として、コンパクト化された「直」視鏡形状のステレオ撮像装置を開発し、総合的な使用感の極限向上に挑む。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画において想定していたよりも、高速・高精度なステレオ視法の研究開発が良好に進んでおり、おもにこのことに起因して研究費の使用には余剰(繰越金)が生じている。 一方、ステレオ撮像装置の出力情報を処理する際に、スリット状窓内の奥行の平均値はスリットの長軸に沿って奥行の任意分布を平滑化する傾向にあり、この性質は都市的空間においてステレオ撮像装置(仮想的に無限にのびる、実際には短い白杖)を走査的に扱うことにより線状構造物の縁を検出することを容易にするので、扱いやすいステレオ撮像装置の開発こそが実用化へ向けての鍵となることがいっそう明確になってきた。次年度に当たる平成25年度には、このことにかかわる研究費が当初の計画において想定していたよりも余分に必要であり、ユーザに三次元空間を高い信頼度で認識させることが可能となる新たな視覚障害者用空間認識装置を創出するという目的に沿って、繰越金を有効に活用したい。具体的には、おもに「物品費」を用いて、通常の白杖をやや短くした物の先端部に、縦が2.0mm、横が2.7mm、長さが6.7mmである米粒程度の世界最小の超小型CCDカメラヘッドが二個埋め込まれた形状のステレオ撮像装置の第三号試作機を開発する。 また、初年度には当初の研究計画調書に記載あるとおり院生であったが現在は学外の教育機関に勤めている研究協力者と共に研究代表者は、ステレオ撮像装置と、高速・高精度なステレオ視法を搭載した情報処理装置とからなる視覚障害者用空間認識装置について、これまで得られた結果を取りまとめ、「旅費」を用いて三次元視覚に関する国際学術会議での成果の発表を行い、その際、費目「その他」を用いて、ステレオ撮像装置の出力に高速・高精度なステレオ視法を適用して得られた三次元画像をレンチキュラー写真化し配布する予定である。
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