研究課題/領域番号 |
23500659
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
淺香 隆 東海大学, 工学部, 教授 (50266376)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 濃厚栄養剤 / 半固形化 / トロミ調整剤 / 増粘剤 / 凝固剤 / 粘度 / ずり速度 / テクスチャー |
研究概要 |
本年度は濃厚栄養剤や濃厚栄養剤へ増粘剤を加えて調製した半固形化栄養剤について、「円錐・円板型粘度計」(購入設備)と「解析用ソフトウェア」(物品費で購入)、共軸二重円筒型粘度計ならびにクリープメータ(現有設備)を併用して、レオロジーやテクスチャーのような物性を総合的・定量的に把握・評価できる「半固形化濃厚栄養剤の物性評価システム」を構築して当該研究に供した。 まず市販の濃厚栄養剤や増粘剤、これらの原材料である基本的な増粘多糖類について、厚生労働省が定めていた「高齢者用食品:そしゃく・えん下困難者用食品」の許可基準」で採用されていたずり速度3/sと、食物の咽頭通過時のずり速度といわれる50/sの各条件で、ずり速度と粘度との関係を測定、併せてテクスチャーも測定した。 この結果、同一熱量(1kcal/mL)の濃厚栄養剤(二種類)の粘度はほぼ10mPa・s程度であり、ずり速度の影響も少ないことが判明したが、市販のトロミ調整剤(増粘剤;三種類)を濃度2%となるように添加すると粘度は増加し、ずり速度の増加と共に粘度は低下した。さらに、濃厚栄養剤Iへトロミ調整剤を加えると、水にトロミ調整剤を加えた場合よりも粘度は増加し、一方、濃厚栄養剤Mへトロミ調整剤を加えると水に加えた場合よりも粘度は顕著に減少した。テクスチャー解析の結果、かたさ応力は粘度と同様に増減し、トロミ調整剤を添加した双方の濃厚栄養剤の付着性は有意に増加、凝集性は顕著に減少した。 よって、濃厚栄養剤を半固形化する際にはこれらの組み合わせに注意する必要があること、この理由は増粘多糖類同士やミネラル、タンパク等との相互作用が原因であることを第15回日本病態栄養学会年次学術集会にて、研究協力者である山崎ひろみ(東海大学大学院工学研究科工業化学専攻大学院生)により成果報告がなされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、食事を経口から摂取できない経管栄養補給患者に対して投与される、(1)濃厚栄養剤、(2)濃厚栄養剤へ増粘・凝固剤を添加して調製した半固形化栄養剤、そして(3)市販の半固形化栄養剤について、粘度をはじめ、かたさ・凝集性・付着性等のテクスチャーに関する物性変化を調査し、最終的に患者や介護・支援者をはじめ医師や医療従事者にも理解しやすいように結果をまとめ、臨床へフィードバックすることを目的としている。 本年度の研究成果は「研究実績の概要」にて前述した通りであるが、自己点検の結果、上記目的の(1)および(2)を達成していることから、「区分:(2)おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果をさらに発展させ、平成24年度は濃厚栄養剤や増粘・凝固剤の種類をさらに増して半固形化栄養剤を自己調製すると共に、これらの組み合わせや濃度、温度(室温:20℃,冷蔵:10℃,加温:45℃)やずり速度をパラメータとし、本年度構築した「半固形化濃厚栄養剤の物性評価システム」を利用して、粘度のようなレオロジー特性、かたさ・付着性・凝集性のようなテクスチャーに与える影響を明らかにする。可能であれば、これらの結果をもとに医学部付属病院にて半固形化栄養剤を調製してテクスチャー試験を行うと共に、調製した半固形化栄養剤を患者へ提供して嚥下機能の評価や官能試験を行うことも予定している。 最終年度である平成25年度は、市販の数種類の半固形化栄養剤について本年度構築した「半固形化濃厚栄養剤の物性評価システム」を利用して粘度やテクスチャーを測定し、これら製品の物性に合致するような半固形化栄養剤を自己調製するための条件を探索する。あわせて「半固形化」状態がイメージしやすいように市販の半固形態食品の物性も測定する。 なお、これら半固形化栄養剤が体内に導入された際、唾液や胃液、アミラーゼやペプシン等の酵素との反応、一方では栄養剤の成分であるミネラルの遊離(電離)や増粘・凝固剤とのイオン交換等が濃厚栄養剤の物性に影響を及ぼすことが考えられる。そこでpHやミネラル成分が物性に与える影響に関しても調査する予定である。 さらに、患者や介護・支援者をはじめ医師や医療従事者が、濃厚栄養剤を半固形化する際や市販の半固形化栄養剤を選択する際の客観的な指針となるよう、半固形化濃厚栄養剤のレオロジー特性やテクスチャーを解析して得られた結果を取りまとめ、成果を公表する。なお、可能であればデータベースの構築ならびにインターネットのホームページを通じて情報提供・発信し、臨床へフィードバックする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度予算には、「高低温サーキュレーター」と「自転・公転ミキサー」の購入ならびに研究協力者(大学院生)の実験補助やデータ整理に対する謝金を計上していた。 しかし、学術研究助成基金助成金の遅配および学内の備品購入締切に間に合わず、当該設備の購入はできなかったが、研究が遅滞しないように「高低温サーキュレーター」は自己調達し、「自転・公転ミキサー」は同僚が快く貸与してくれた結果、研究を推進できた。さらに、熟考期間が与えられたために研究の構想も膨らみ、必要となる機器の精査もできた。 この結果、平成24年度は自動縦型スタンドとデジタルハンディフォースゲージ、計測制御ソフトウェア(いずれも物品費で購入)を組み合わせて「テクスチャー簡易試験機」を製作し、クリープメータ(現有設備)との比較試験を行い精度や確度を把握する。さらに「今後の研究の推進方策」にて前述したように医学部付属病院(臨床現場)にて本試験機を利用しテクスチャー測定を行い、嚥下機能評価結果や官能試験結果との相関を調査することも視野に入れている。 加えて、研究の推進に必要となる試薬や部品類をはじめ、研究成果発表に係る旅費ならびに学術論文投稿に係る費用、研究協力者(大学院生)の実験補助やデータ整理に対する謝金を計上する。
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