研究課題/領域番号 |
23500660
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
泉 隆 東海大学, 生物理工学部, 教授 (80193374)
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研究分担者 |
田中 敏明 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任教授 (40248670)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 起立動作の早期検出 / 着座中の動作推定 / 車椅子の無線通信 |
研究概要 |
脳血管疾患によって下肢に麻痺がある人は車椅子を使用することが多いが,車椅子からベッドなどへの移乗動作を行う際に転倒事故が起きている.転倒事故の防止には確実なブレーキ操作とフットレスト操作を行うことが必要であるが,脳血管疾患の後遺症により注意機能や認知機能に障害を持つ人では,新たに車椅子等の機器の操作方法を習得することが苦手な人も少なくない.従来の研究から,半側空間無視などの注意障害者では,車椅子から移乗を行う際に光表示や音声表示で誤操作の注意喚起と正しい操作方法の教示を行うことで,転倒につながる可能性がある誤操作を行う回数の減少が見られている.車椅子使用中の転倒事故の予防には,誤操作中の起立動作を早期に検出して注意喚起のメッセージを起立動作の初期に与える行うことが有効であると考えられる.平成23年度は,起立動作を早期に検出する手段として,(1)車椅子の座面と被験者の臀部・大腿部の接触状態の時間的な変化を複数のセンサで検出する方法(座面センサの多チャネル化による改良)を提案し装置を試作した.また,リハビリテーション病院の臨床現場において試作したセンサの効果を検証し良好な結果を得た.次に,(2) 車椅子着座中の被験者の頭部や体幹の位置と角度の変化を検出するセンサ(3Dセンサ)を導入した.実験室での知見であるが,車椅子使用者の身体姿勢や動作を一定の精度で識別できることを検証した.また,(3)車椅子からベッドや椅子に移乗するまでの一連のデータを車椅子に搭載した装置で一元的に収集するため,車椅子とベッド等の間で無線通信を行うモジュールを導入し,システムとして開発を始めた.以上のように,起立動作の早期検出手段,着座姿勢変化の識別手段,車椅子の通信手段を開発することで,平成24年度に向けて,脳血管疾患者の車椅子の誤操作による転倒を防止する具体的な方法について見通しを得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,注意障害者と比較して従来法では転倒防止の効果があまりあがっていない認知機能障害者の車椅子使用時の安全向上に寄与する方法を開発することを目的として,車椅子使用者が車椅子から移乗する際に行う身体動作を検出する手段の改良を行った.平成23年度に実施した具体的な研究内容は,(1)車椅子使用者の転倒に直接的に結びつく誤操作中の起立動作の早期検出手段(座面センサの多チャネル化)と,(2)着座中の姿勢変化がはらむ危険性の識別を行う手段(頭部や体幹の位置と角度の変化検出)を開発したことである.これらは,研究実施計画に記載された主要な内容に対応している.また,使い勝手を高めるための(3)通信手段(無線モジュール)を導入してシステムとしての開発を始めたが,これも研究実施計画に記した内容に対応する.以上のように,平成23年度に遂行した内容は,当初計画した内容を概ね満たしているので,本研究の達成度については,「概ね順調である」と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
従来の光表示と音声表示による注意喚起手段だけでは必ずしも移乗時の誤操作が減少していない認知機能障害者に対して,新たな感覚モダリティである皮膚触覚を通じた注意喚起・情報呈示手段の適用を検討する.車椅子操作は手(ブレーキ操作)や足(フットレスト操作)の身体運動によって行うものである.介護等の臨床では被介護者の四肢に介護者が直接的に触れて運動を促すことが行われるが,それと同質の手段として,車椅子使用者の四肢に人工的に皮膚触覚を通じて注意喚起する方法を提案する.具体的には振動モータを利用した触覚呈示手段であるが,これまでバランストレーニング時の感覚フィードバック手段に用いており臨床経験を有している.平成24年度は,従来の光表示と音声表示による手段と皮膚触覚を用いる手段を組み合わせた注意喚起を試み,認知機能障害者にとって効果的な情報呈示方法を確立したい.また,平成23年度の研究成果を活かして,誤操作時の危険な起立動作を早期に検出した情報を,認知機能障害者にわかりやすく注意喚起することで,車椅子からの転倒を防止する総合的なシステム構築を目指したいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は,東日本大震災の影響で11月まで予算配算額が約40万円減額されたため,新たな予算内で遂行できるように研究計画を変更した.その後,当初の満額の予算が配算されたが,再度の研究計画の変更は困難であったため年度末までの未使用額が40万円程度に上ることになった.このような事態は今年度に限った特別な事情によるものであり止むを得ないものであったと理解している.北海道では震災の影響も少なく,変則的な予算の下でも研究計画の本質的な部分は遂行できたことは不幸中の幸いと考えている.次年度は,認知機能障害者に対して注意喚起を的確に行うための皮膚触覚を利用した表示方法を検討するため計測制御ボードを導入したい.また,認知機能障害者の車椅子操作を記録して注意喚起の機能を客観的に評価するために動画像解析を行う予定である.更に,研究成果発表にも今年度以上に積極的に取り組み,研究計画を着実に推進する所存である.
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