研究課題/領域番号 |
23500660
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
泉 隆 東海大学, 国際文化学部, 教授 (80193374)
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研究分担者 |
田中 敏明 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40248670)
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キーワード | 車椅子の転倒事故 / 操作手順の教示 / 注意喚起 / 振動触覚表示 / 車椅子の無線通信 |
研究概要 |
脳血管疾患による下肢麻痺者は車椅子を用いることが多いが,車椅子の使用に不慣れな段階ではベッドや椅子等への移乗時に転倒することがある.転倒事故を防止するためにはブレーキとフットレストの操作を確実に行うことが必要であるが,脳血管疾患の後遺症による注意障害や認知障害がある人では,車椅子の操作方法を新たに習得することが苦手なことも少なくない.本研究では,これらの車椅子使用者に対して,正しい操作方法を教示し,誤った操作が行われたら注意喚起を行うことで,車椅子の正しい操作方法の習得を補助し,移乗時の転倒事故を防止する効果を期待するものである.これまでに,座面センサや頭部や体幹部の位置センサを工夫して,誤操作中の危険な起立動作を早期に検出し注意喚起する手段を試作し,臨床応用に向けた準備を進めている.平成24年度は,操作方法の習得が困難な認知障害者による使用を念頭に,正しい操作手順に関する情報保障を強化するために,光表示や音声表示に加えて手足各部への振動触覚表示を導入した.振動触覚表示装置は車椅子を降車する使用者の身体に装着して用いるため,車椅子本体と物理的に分離して使用できるように無線通信機能を導入した.さらに,車椅子からベッド等へ移乗するまでの一連のデータを車椅子に搭載した制御装置で一元的に集録するために,無線通信装置の改良にも着手した. 以上のように,振動触覚表示と無線通信機能を導入することで,最終年度である平成25年度に向けて,脳血管疾患者の車椅子の誤操作による転倒事故を防止する機能モデルを構築するための準備を進めることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,新しいことを習得することに困難を感じている認知機能障害者が,車椅子を安全に使用するために寄与する方法を開発することを目的としている.使用者の車椅子の構造や操作手順に関する記憶が曖昧であっても,必要な時に正しい操作が行えるように手足を導くための情報表示手段の改良を行った.平成24年度に実施した研究内容は次の2点である.(1)振動触覚表示を両手首と両足首に対して任意の時相に行う振動触覚表示装置を試作した.PICを搭載し振動触覚の時間パターンを任意に調節できる機能とした.(2)車椅子本体に設置したパソコン等の制御装置からの信号を無線通信によって振動触表示装置に伝える装置を試作した.車椅子使用者は,車椅子を降車しても振動触覚提示装置によって身体が拘束されないことを実現した. これによって,光・音声・振動触覚の各種の情報表示手段が認知機能障害者の車椅子操作の正確性の向上や危険な動作の回避に及ぼす効果を臨床的に検証する準備が整った.以上のように,平成24年度に遂行した内容は,当初計画した内容をおおむね満たしており,本研究の達成度は「おおむね順調に進展している」と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,従来からの光表示と音声表示だけでは必ずしも誤操作がなくならない認知機能障害者に対して,振動触覚を通じた注意喚起・情報表示手段を導入しており,臨床評価の準備が整いつつある.今後は,従来の表示手段と新しい振動触覚表示手段を組み合わせた複合的な情報提示を試み,臨床現場において有効性の評価・検証を行い,使用者の身体機能と認知機能のヴァリエーションに適応した情報保障の方法を確立したい.臨床評価を的確に実施するために,従来から注意喚起車椅子に関する研究で協力を頂いているリハビリテーション病院の協力を仰ぐ予定である. また,これらと並行して初年度の研究成果である誤操作時の身体動作の早期検出手段と直近の成果である各種の情報提示手段とを統合し,脳血管疾患により運動機能障害や認知機能障害を併せ持つ方々のための,車椅子使用時の安全確保とスムーズな移乗動作の実行に役立つ総合的なシステムの構築を目指して研究を進展させる所存である.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は震災に起因する予算配算の遅れの影響で予算の一部が平成24年度に繰り越された.平成24年度の研究はおおむね順調に進展したが,初年度と同程度の繰り越しが再び生じた.次年度は最終年度であるので,当初計画した以上に積極的に研究活動を行い,成果発表にも着実に取り組みたい.
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