最終となる平成25年度は,過去2年間の研究で進めてきた医療施設に入院している認知症高齢者標本118名(84.5±6.4歳,男性30名,女性88名)の高頻度反復測定データを基に明らかにした転倒予測モデルとしての臨床症状推移の一般化可能性を,地域生活を送る認知症高齢者標本を対象に検討した。この検討では,他の身体障害や疾患の合併例が多く純粋な認知症の疾患特性を捉える事が難しい施設入所標本ではなく,また認知症ケア全般に知見を還元する意図より地域生活者標本として精神科クリニック併設の認知症デイケア・デイサービス・グループホーム利用者68名(80.4±7.7歳,男性20名,女性48名)を対象に実施した。その結果,施設生活者標本においても,医療施設標本における測定間隔1週間・追跡期間3ヶ月のデータと同様に,知的機能が低い状態に加え,転倒直前に行動・心理症状(BPSD)の悪化が見られる類似した臨床症状の特徴的推移を示すことが示された。また歩行レベル者では転倒直前において徘徊の発生頻度が高いといった,移動水準ごとのBPSDの具体的症状の特徴を明らかにした。以上の知見は,臨床諸家による一般的な経験則に合致する内容と思われ,認知症ケアにおける転倒リスク集団の抽出に示唆を与えるものであった。 成果発表として,本研究の一環で取り組んだ行動観察による移動能力指標の信頼性・妥当性の検討結果を第48回・第49回日本理学療法学術大会で公表,「理学療法科学」に投稿した。また障害の特徴について類型化を試みた知見について第39回日本脳卒中学会で公表,転倒に関連した研究成果を第49回日本理学療法学術大会で公表予定としている。そして転倒予測モデルに関する医療施設標本,地域生活者標本それぞれでの知見を基に2編の論文執筆を完了し,レフリー誌にて公表する計画である。
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