本研究では、障害者のリハビリ用装具に適した小型、軽量、柔軟といった特性を有する人工筋肉を形状記憶合金(SMA)ワイヤによって実現しようとする目的で、うねり形状のSMAワイヤ単線及びセル構造体を作製し、その力学的性能評価実験を行うことで、高い伸縮性と適度な収縮力を有した人工筋肉の設計可能性を示した。また、有限要素法(FEM)解析によるSMAの力学的変形挙動のモデル化を行うことで、SMA人工筋肉の最適形状や構造設計の指針を得ることができた。さらに、指装着リハビリ装具を試作し、その適用可能性を示した。 最終年度(平成25年度)の研究成果としては、まず、SMA人工筋肉の力学的変形挙動をより正確に評価する手法構築のために、常温負荷と昇温中の形状回復の両過程を弾塑性モデルで近似し、連続的に静的陽解法のFEM解析を行った。これによりSMAの加熱に伴って発生する形状回復力を求めることができた。また、形状回復負荷過程の荷重履歴は実験から得られた傾向をよく表すことから、提案したFEM解析のモデル化が有効であることを示した。 次に、指の上下に2個対にして取り付けたSMAアクチュエータを交互に加熱することで、人間の筋肉と同様な屈伸運動をする指装着リハビリ用装具を試作した。ここで、加熱機構は、指にはめる布製保護カバーの上下にねじ式電極部を設置し、SMAワイヤに直接一定な電圧を周期的に加えることにした。このねじは、リハビリする指の状態に応じてアクチュエータの張力を予め調整することで用いる。印加電圧の範囲は1.5V~4.5Vで、電圧が高くなる程アクチュエータの応答は早くなる。また、試作体は指がまっすぐ状態(角度0°で、変形率ゼロ)から90度に曲がった状態(変形率は約28%)まで十分に屈伸動作ができることで、指装着リハビリ用装具として適用可能性を確認した。
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