本研究の目的は、第二次大戦後の4ヶ国占領下オーストリアにおける学校体育の復興過程について、(1)未開拓資料を体系的に調査・収集し、(2)その資料を「占領下」という新視点から検討、考察を加え、(3)これまで明らかにされてこなかった戦後オーストリアの学校体育史研究に新境地を開くことにあった。(1)については、当初在米資料の調査・収集も計画していたが、オーストリア国立文書館所蔵資料が膨大で、なおかつ体系的な目録が未整理であったために、こちらの作業に専念し、在米資料の調査・収集は断念せざるを得ない結果となった。しかしながら、オーストリア連邦教育省に関する行政文書を見出したことは大きな成果であった。(2)については、ウィーン大学中央図書館雑誌室においてアメリカ占領軍が発刊していた教師向け雑誌Erziehungを収集し、検討・考察することができた。その結果、アメリカが自国の人気スポーツであるバスケットボールをオーストリアに導入しようとしていたことや、自国で一般的となっていたグループ学習の理論と実践をオーストリアに導入しようとしていたがオーストリア側との間に軋轢を生じていたことなどが明らかとなった。(3)については、資料的制約があり「占領下」という新視点を駆使したアプローチができなかったが、オーストリア連邦教育省に体育館付設状況に関する報告が多数届けられており、この史実を詳細に検討・考察した結果、戦前・戦後を通じてオーストリア学校体育における最大の課題が体育館付設状況が劣悪であったことが判明した。これこそが本研究が提示するオーストリアの学校体育史研究に対する新境地であり、この成果は2013年10月に開催された教育史学会大会において口頭報告し、その後当該学会に論文として投稿し、現在審査中である。
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