研究課題/領域番号 |
23500700
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
数馬 広二 工学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (30204407)
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キーワード | 馬庭念流 / 樋口定廣 / 火雷若御子神社 / 五十嵐勘兵衛 / 宮沢安八 / 小野派一刀流 中沢源蔵清忠 / 清隆館 / 八王子千人同心組頭・斎藤家文書仮目録 |
研究概要 |
本研究は、江戸時代初期から幕末に至るまでの剣術流派の分布と内容を調査し、最終的には、近代日本へ継承された身体観、身体教育観の変遷を実証するための研究である。武術が、武士以外の百姓階層(農民・海民など)でも行われ、これら庶民の身体観に影響を及ぼしていた可能性が高く、これを文書調査、聞き取り調査、金石文調査などから明らかにする方法をとる。 平成24年度は、①幕末から明治にかけての群馬県の農民剣術流派である馬庭念流、②小野派一刀流の中沢源蔵清忠の道場、③武蔵国多摩郡犬目村千人同心の斎藤家の武術関係資料について調査した。 明治期の馬庭念流門人の分布について、樋口家文書、宮沢家文書を調査した。これによると20世樋口定廣の明治17年頃の門人は1900名以上おり、その組織は、免許、高弟、目代、事理、目録、太刀組目録の階層が整っていた。また7回の奉納額活動(群馬県高崎市・清水寺、火雷若御子神社、倉賀野神社、辛科神社、総社神社、三重県・伊勢皇太神宮など)を行った。書簡の解読作業においては、樋口定廣が江戸から帰郷するまで馬庭村・松本周作、白石村・宮沢安八、東中里村・五十嵐勘兵衛らの高弟が支えていたことが判明した。 江戸幕末期に上野国群馬郡で自宅道場を開いた小野派一刀流中沢源蔵清忠(1797-1878)について高崎市足門町の間庭千恵子家を調査した。道場「清隆館」は4間半×3間、東向きで同時に三組稽古が可能。師範席は南向きにある。また近隣にある諏訪神社(高崎市金古)、妙見宮、八坂神社の3ヶ所における中沢門弟による小野派一刀流の奉納額を撮影した。 また武蔵国の八王子千人同心組頭・斎藤家の文書調査では、合計2,283点(A:2,068点、C:83点 D:41点 E:91点)の「表題・差出人・宛先・年(干支)西暦・月日・形態・点数・備考・キーワード」の10項目に関するエクセルデータを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、平成23年~25年度の3年間におよぶ研究で、江戸時代初期から幕末に至るまでの剣術流派の分布と内容を調査し、最終的には、近代日本へ継承された身体観、身体教育観の変遷を実証するための研究である。 平成23年度は江戸における馬庭念流の調査を行い、第44回日本武道学会(国際武道大学)で口頭発表するなど一定の成果をあげることができた。 平成24年度には、「明治期における馬庭念流の動向について」日本武道学会第45回大会」(東京農工大学)で発表した(2012年9月7日)。また小野派一刀流中沢源蔵清忠が婿養子となった間庭家では道場「清隆館」が現存した。その「清隆館」は明治21年出版『皇国武術英名録』に掲載の絵図のとおりの造りであった。江戸時代~明治初期にかけての農村における武芸教育を伺い知ることの出来る道場で、大変貴重な文化遺産であると評価される。また道場周辺の寺社には姓名額が奉納され残っている。 八王子千人同心組頭の斎藤家(八王子市犬目町)の資料を委託され工学院大学犬目校舎2-309号室で保管調査をした。近世古文書2,283点の目録作成を行い(『八王子千人同心 斎藤家文書 近世仮目録A,C,D,E』にまとめた。資料作成においては東京大学大学院河村真澄氏、一橋大学大学院宮島花陽乃氏の作業協力を得て、短期間で効率よく史料整理ができた。資料整理の結果、斎藤家文書は、八王子千人同心の村における生活の実態と日光勤番など千人同心としての生活が解明される好資料であることがわかった。これまで事例研究を重ねながら、百姓階層など庶民の身体観に武術がいかに影響を及ぼしていたか明らかになりつつある。 なお、常陸国の剣術流派、北辰一刀流(水戸藩)、示現流(笠間藩)などは次年度に行いたい。平成23年度、24年度の研究は、最終研究年に向け、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、日本の近代へ継承された身体観、身体教育観の変遷を実証するための、都市ではなく関東の「村」に生きた人々を対象とし、江戸時代初期から幕末に至る迄の剣術流派の分布と内容を調査する研究である。平成23年度は江戸へ進出した馬庭念流の場合、江戸という都市への道場進出が上野国の農民が入門する動機として影響していたことがわかった。平成24年度は、幕末から明治にかけて馬庭念流、江戸から進出して農村に定着した小野派一刀流について調査した。また八王子市犬目村に保存される斎藤家文書の目録づくり(2,283点)をおこなった。 平成25年度は、これまでの農村における剣術流派普及の実態をまとめるためにさらに以下の調査をすすめたい。 (1)長野県佐久市の市川五郎兵衛記念館(佐久市甲)および市川五郎兵衛子孫家の馬庭念流関係資料調査。(2)東京都八王子犬目村・斎藤家文書における武芸関係資料の継続調査(3)東京都八王子市郷土資料館における天然理心流文書の調査。(4)群馬県立文書館および群馬県内における武術関係文書の調査(5)茨城県立文書館における剣術流派の調査-常陸国の剣術流派である北辰一刀流(水戸藩)、示現流(笠間藩)などの門人調査。(6)神奈川県小田原市の藤田東湖文庫ににおける武芸資料調査。(7)小野派一刀流中沢源蔵清忠(1797-1878)について高崎市足門町の間庭千恵子家文書をさらに調査する。また松代藩における小野派一刀流の実態についても調査する。(8)米国UCLA(Ucla Asian Lang&Culutures 290 Royce Hall,Los Angeles CA 90095-1540)での武芸伝書調査。Prof.Bodiford氏の研究室の協力指導をいただき、米国ロスアンゼルス地域における日系移民保管の幕末農民武芸資料を調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年は以下の調査における研究費の使用(旅費・謝金・文献資料購入)を計画している。 1.国内調査として(1)長野県佐久市の市川五郎兵衛記念館および市川家の文書調査(2)東京都八王子犬目村・元八王子千人同心組頭・斎藤家の文書調査と武芸の位置づけについての考察(3)八王子市郷土資料館における天然理心流関係文書の閲覧と調査(4)群馬県立文書館および県内における武芸文書調査(5)茨城県立文書館および茨城県内における武芸資料調査-常陸国の剣術流派、北辰一刀流(水戸藩)、示現流(笠間藩)などの門人分布調査(6)神奈川県藤田東湖文書おける武芸資料調査。(7)小野派一刀流中沢源蔵清忠(1797-1878)について高崎市足門町の間庭千恵子家をさらに調査する。また松代藩の武芸指南の実態についても調査する(60万円)。 2.日系移民保管の武術文書の調査:米国UCLA(Ucla Asian Lang&Culutures 290 Royce Hall,Los Angeles CA 90095-1540) での日系移民の武芸伝書調査に関する打ち合わせ(prof.Bodiford先生)および調査に30万円を使用する。 3.武芸資料の購入とデータ収集および保存:古書店あるいは個人所有者から、物品費にて購入する。そのほか、情報収集のための通信機器および撮影データ保管のためのメディア、ハードディスクの購入(10万円)する。 また調査全体を通して、資料閲覧と撮影を認可していただいた資料所蔵者に対して、撮影と閲覧に対する謝金も要する。
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