研究課題/領域番号 |
23500703
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研究機関 | 東京女子体育大学 |
研究代表者 |
金子 一秀 東京女子体育大学, 体育学部, 教授 (40185921)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 自己運動 / 動感指示語 / 交信力 / 観察力 |
研究概要 |
運動を観察するには外部視点から運動を観察することと、自己運動として運動を観察するという二つの態度をもつことになる。前者は自然科学的な運動研究で分析され、物質身体にその原因を求める。一方後者の自己運動としての運動観察は、自ら動くという運動者の企図に切り込みそこに本質法則を求めることになる。「何かができる」という運動発生は、自らがそうしたという動感問題と切り離すことができない。しかし、そこには受動的発生という先反省的な営みが見え隠れし、それはいままで問題視されていなかった。相手の運動感覚(動感世界)に立ち入ることを外部視点から捉えれば、単なる想像であり思い込みと一蹴されてしまう。ところが、コーチの一言で運動問題が解決できたという現場の事実は枚挙にいとまがない。単なる記号としての言葉を伝えたから運動が発生したというなら、その指示語を誰がいつ使っても運動が発生するはずである。そうでないから運動問題を解決する動感指示語はいつどこで使うべきか検討を要するし、相手がそれを理解できる状態にあるかどうかも見分ける必要に迫られる。 他者同士の動感について共通世界を有することは実践場面では絶体事実性として呈示される。素人では見分けがつかない運動問題を見抜いたり、時には映像世界で捉えることができない動感問題を見抜き、適切な指示を出す指導者がいる。そこには、運動観察者の持つ身体知が大きく関わることになる。指導者の身体知を起点として運動を観察するから、「今いっても分からない」とか「今言わないと大きな問題となる」と捉えることになる。伝える側と承ける側との関係が崩れるだけで、いくら動感観察ができても問題の解決には至らないから、動感交信力は一つの技能と捉えることができる。次年度に向けてそのような観察力の基礎をなす交信力を養成する方法を探ることになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動観察力の養成をテーマに研究を進めているが、今年度は単に動感問題が捉えられただけでは運動発生に至らないことが明確化した。指導者は動感運動を発生させるために観察をするのであり、動感問題を単に指摘するだけでは外部視点からの指摘と変わりない。つまり、交信力という「伝え手」と「承け手」の関係系を構築する動感交信力がないと外部視点からの運動問題の指摘と何ら変わりないのである。この考え方を基礎におき、次年度以降、動感観察力の養成方法の構築へと向かうことになる。基本原理を取り巻く問題として動感交信力が浮き彫りになったことで問題が整理され、おおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、動感観察力の有無を見極める方法について研究を進めることになる。たとい観察力を養成したとしても評価することができないのならば、本当に観察力を養成したかも怪しいものである。評価の方法が構築されれば、運動指導者養成機関の授業で観察力養成が体系的にカリキュラムに組み入れ可能となる。観察力の素材としての身体知のレベルと、相手との動感交信の能力が絡み合って動感発生が可能となるが、その絡み合いをもう少し明快に分析していきたい。最終年度はそのような研究成果として、動感観察力の養成方法としての成果を発表することになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は東日本大震災の影響で購入予定物品の目処が立たず、早期にそれに係わる研究を次年度に変更した。今年度は昨年度購入予定の物品調達が順調に行われ、研究を精力的に進めることができる。とくに大学での運動観察力の授業における液晶モニターの整備と映像データの処理を行うパソコンに予算を使う予定である。
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