研究課題/領域番号 |
23500703
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研究機関 | 東京女子体育大学 |
研究代表者 |
金子 一秀 東京女子体育大学, 体育学部, 教授 (40185921)
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キーワード | 運動観察力 / キネステーゼ / 動感志向性 / 借問 |
研究概要 |
一般に観察は「ものごとの状態や変化をありのままに見ること」と理解されるが、運動指導現場における観察は、観察結果から運動修正に向けての具体的な指示を出すことになる。観察結果が外部視点からの形式的な問題点の指摘と同じレベルでは、映像機器による分析結果の方が正確である。人間の指導者が運動を観察するという態度は、運動者の「自己運動」を観察することを意味し、相手の運動感覚(キネステーゼ)の問題点を見つけ解決することである。優秀な指導者は、本人の受動世界にある運動感覚問題をも見いだし解決するが、その観察力は能力性に支えられている。だから指導者の運動観察能力はどのように養成できるかが重要となってくる。 学習者は指導者の指示を聞きながら動感問題の解決に向かうが、そこに両者の動感志向性の交信の場が築かれる。指導者は自ら伝えるべき運動感覚を言語に乗せ学習者に伝え、学習者はその指示語を自らの動感志向性で捉えることになる。科学的思考に慣らされている我々は、一般に指導者の指示語が学習者に聞こえ、その情報を理解して運動問題の解決に向かうと誤解してしまう。志向性とは「自らの或ものへの意識」であり、伝える側も聞く側も、つまりお互いの動感志向性が対峙するとき、超越論的な間身体性へと向かう。それは動感交信の中で借問により、それぞれの動感志向性が超越論的な意味で間身体性が成立して運動問題が解決されることになる。この本質原理に至ったことで、今年度は観察者と観察される側の関係が明らかになった。この研究成果の一部は「動感発生に遡る様相化分析」として発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、指導者と学習者の創発身体知と促発身体知の関係に、間動感志向性という本質原理が存在していることを解明した。特に指導者の指示を聞く学習者の動感志向性が鍵であり、指導者の指示語を聞くという態度は、学習者の動感志向性によるものである。それにより、何度も同じ指示を出しているなかで「分かった」と「気づく」現象が解明されたことになる。これにより具体的な運動観察力養成方法の構築の基礎ができたと考えられる。この基本原理の解明により、本研究は概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、「体育教師の運動観察力の養成」という研究をまとめる最終年度となり、昨年度の結果を踏まえ、具体的な運動観察力の養成方法を検討することになる。本質原理の解明から方法論への道に向かうまとめにおいては、本学で展開されている「運動観察方法及び実習」の授業で、学生に運動観察力養成法を教授して具体化していくことになる。 運動の一回性の原理から再現映像を具体的な資料として運動観察授業を展開することになるが、携帯電話等の手軽なメディアを使い、授業時間以外でも有効な観察力の訓練ができる方法を検討したいと考えている。学生の携帯電話の機能に提供できる映像を作成し検証するためのモバイル機器を購入することになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
通年で「運動観察方法及び実習」の授業が展開されており、前期中に観察力養成のための映像資料を作成する。その映像資料を学生所有のモバイル機器で再生可能かを確認・検証するために数種のモバイルを購入する。前期の検証の結果を踏まえ、映像資料を充実させ後期の授業で具体的な運動観察力の訓練方法を実施する。後期の予算執行は、研究成果をまとめるための消耗品等となる。
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