本年度は、これまでの研究成果の一般化へ向けて、運動意欲の発達的変化モデルを仮説的に構築し、運動実践に関わるすべての人々に対する介入方略を提言することを目指すこととした。すなわち、すべての人々の経験と彼らの運動意欲がどのように発達的に変化していったのか、という観点から分析していくことで、運動実践に関する専門的介入方略を探求し、具体的な項目として提唱できるように試みた。とくに、目前の現象を外的事実として捉えるのではなく、自己にとっての意味や捉え方を内的事実として捉え、それを丁寧に解釈することで個人の理解を深めることに配慮した。その際、個人の主観的な解釈に陥ることを避けるため、当該分野の専門研究者から助言を得て、知見の整合性を検討するということも怠らないようにした。 結果として、少年期には、彼らの運動経験の少なさや自己評価・自己認知の正確性の低さから、成人にみられるような運動に対する否定的な価値付けの割合が低い傾向がみられた。成人では、少年期にみられるような自己に対する期待感や運動への肯定的な価値付けが小さいモデルが採択された。このように、運動意欲の差異に影響を及ぼす要因は、それぞれの心理的な成長過程と関連性が高いため、運動・スポーツと人格変容に関する諸問題も考慮に入れつつ、運動学習場面において発達段階を考慮した適切な働きかけが必要であると考えられた。 本研究のように運動意欲の発達的変化モデルに着目することは、さまざまな問題事象を多角的に捉える試みとして意味深く、大きな意義があったといえる。
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