研究課題/領域番号 |
23500717
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
松坂 晃 茨城大学, 教育学部, 教授 (70190436)
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キーワード | 障害者スポーツ |
研究概要 |
知的障害のある児童生徒は自由な外遊びやスポーツ参加の機会が限られ,運動スキルの獲得や身体発育に必要な運動量を確保しにくい状況にある。未熟な運動スキルや不十分な体力は,将来のスポーツ参加をさらに困難なものとし,豊かなスポーツライフを通じた充実した生活や健康的な生活を制限する可能性がある。 特別支援学校学習指導要領解説では,小学部の体育で取り扱う指導内容として,体つくり運動,器械運動系,陸上運動系,水泳系,ボール運動系,表現運動系を,また,中学部の保健体育で取り扱う内容として,体つくり運動,簡単なスポーツ(陸上運動,水泳,球技,武道,器械運動等),ダンスをあげている。しかし,小学校学習指導要領解説体育編や中学校学習指導要領解説保健体育編に示されるような詳細な例示はなく,知的障害のある児童生徒の体育指導の難しさが伺われる。 本研究は知的障害のある児童生徒の運動スキルの実態を把握し,特別支援学校における体育学習内容を検討し提案しようとするものである。これまでの本研究の結果,鉄棒でのさか上がりやマットでの後ろまわりができない児童生徒が多いけれども,ボール操作系の運動スキルは学年進行とともに上達がみられることや,その一方で,器械運動系の取り組みが学年進行とともに減少するとともに,ボール運動系の授業機会が少ないことなどが示唆されている。さらに,これらの運動スキルについて客観的に評価するため,保育園児および小学校児童を対象にビデオ撮影を行い評価基準を作成しているところである。これまでのところ,マット運動とボール運動の評価基準作成を終えており,知的障害のある児童生徒の運動スキルの実態をこれらの評価基準に照らしながら明らかにしていく作業をとおして,特別支援学校の知的障害のある児童生徒の体育学習内容の精選につなげたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,園児および小学校児童を対象として,走る,跳ぶ,まわる,投げる,打つ,つかむ等の運動スキルをビデオ撮影し,それらを分析し評価基準を作成して,知的障害のある児童生徒の運動スキル発達の特徴を捉え,体育学習内容の精選につなげることをめざすものである。障害のない幼児児童生徒の運動スキル発達段階についてはいくつかの先行研究があり,動作内容と年齢との関係が明らかにされている。そのような評価基準には,動作を全体としてとらえ,その内容から発達段階を示すものと,ひとつひとつの構えや動きの有無を点数化し合計点を求めるものがある。様々な運動スキル評価において,これらのふたつの方法の中でどちらが適するかの検討に時間がかかっていることが研究が遅れているひとつの理由である。評価基準作成は本研究の基軸であり,計画の甘さもあったけれども,時間をかけてしっかりとしたものを作成したいと考えている。 計画の遅れのもうひとつの理由は,特別支援学校児童生徒の障害の多様性が進み運動能力の個人差が拡大して,扱うべき運動スキルの難易度の幅が広がっている点を考慮しなければならなくなったことがあげられる。最近では療育手帳を持たない児童生徒の特別支援学校入学者が増えており,こうした児童生徒は身体能力が高く,運動スキル評価基準の上限に達してしまうことが考えられる。インクルーシブ教育が進む中で,様々な知的理解力および身体的能力をもつ児童生徒が同じ場で共に学ぶことは大きな意味があり,このことを考慮した評価基準作成および体育学習内容作成を検討する必要があると考え,再検討しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
遅れている園児および小学校児童を対象とした各種運動スキル評価基準の完成をいそぎたい。マット運動の評価基準は作成を終えているが,鉄棒運動については進んでいない。これについては事前の質問紙調査の結果,特別支援学校で体育教材として殆ど取り上げられておらず,安全上の懸念があるものと推察され,調査対象から除外したいと考えている。ボール運動では「つかむ」,「投げる」,「突く」,「移動しながらつかむ」,「移動しながら投げる」などの動作を分析し,評価基準を作成した。今後は「蹴る」と「打つ」について分析を進める。また,「跳ぶ」についてはその場跳び,なわとび,立ち幅跳び,走り幅跳び,ハードル,跳び箱の開脚跳び等の撮影を行った。今後はそれらの分析と評価基準づくりを進める。 つぎに,特別支援学校児童生徒を対象とした,上記にあげた各種運動スキルのビデオ撮影を急ぎたい。学校および対象者と保護者の了解を得ており,撮影の準備を進めているところである。特別支援学校に在籍する知的障害のある児童生徒に限っても障害特性等の個人差が大きく,全体像を把握するためには対象数を多く設定したいと考えている。現在のところ特別支援学校1校のみの了承を得た段階だが,その状況をみてから対象校を増やして行きたいと考えている。 本研究の最終的な目標は特別支援学校の体育授業で取り扱う内容の提案である。そのため,各々の運動動作について内容の発達順序性をとらえ(横軸),知的障害のある児童生徒ひとりひとりの状況にあわせて(縦軸),体育指導内容を選択できるようなマトリクスを作成したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
ビデオ撮影のための機材についてはすでに購入し使用している。ビデオ映像が増えるにつれて,それらの整理,保管,分析の管理と効率化を図ることが必要となり,そのためのソフトウエアの購入を検討しているところである。 ビデオ撮影および分析についてはマンパワーが必要であり,倹約しながら効率的に研究費を充当したいと考えている。幼児および小学校児童さらに特別支援学校児童生徒を合わせると対象者は相当数になり,ひとりの対象者について20数種の動作を検討することになる。加えて,評価の信頼性を検討するするため,複数の評価者による結果を照らし合わせて,一致度の確認をしたい。このため多くの謝金が必要となり,研究費の多くをこれに充てる計画を立てている。なお,運動スキルの獲得には日頃の運動量が鍵となる。知的障害のある児童生徒は運動量が少なく,とくに運動スキルの発達する低学年での活発な運動が少ないことが懸念され,本研究の基本構想に影響するので歩数調査を加えておきたい。そのための経費(歩数計)に使用する予定である。 最後に,研究の最終年度にあたり,研究発表を行い,その旅費に研究費を使用する予定である。研究発表により批判や示唆を受けることは研究内容の一層の充実に欠かせないことから積極的に取り組みたい。しかしながら,研究の遅れにともない,研究成果のまとめが遅れている段階であり,一方で,秋に開催される学会発表の申し込み締め切りが近づいており苦慮している。年度末の成果発表を目標に研究を推進し,学会発表のための旅費に研究費を充当する予定である。
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