知的障害児は運動発達に遅れがあり,運動遊びやスポーツに参加する機会が限られ,このことが運動技能の習得をさらに難しくしている。体育授業は運動学習の大切な時間であり,様々な運動に取り組み多様な運動技能を習得していくことが将来のスポーツ参加の機会拡大や健康の保持増進につながると考えられる。本研究は特別支援学校(知的障害)の体育授業について,体育の学習内容検討の基礎資料を得ようとするものである。 はじめに,特別支援学校教員を対象に体育授業で取り上げている内容と担当している児童生徒の運動技能の実態を調査した。小学部から高等部まで持久走,ストレッチ,サーキットトレーニングなどの体力づくりに関わる教材は多く取り上げられていたが,サッカーを除くボール運動の取り組みは少なかった。また,とび箱での開脚とびやハードル走ができる児童生徒は多くなく,バットやラケットで打つ動作についても,できる児童生徒が少なかった。 つぎに,特別支援学校の児童生徒を対象に走る,跳ぶ,投げる,捕る,蹴る,打つなどの動作をビデオ撮影し運動スキル評価表の作成を試みた。それぞれの動作について殆ど動作しないレベルから一般的なスポーツ活動に参加できるレベルまでを4段階に分けるとともに,0から100までの運動スキルスコアを採点できるよう工夫した。 この評価表をもとに知的障害児の各動作のスコアを求めたところ,学年進行にともなうスコアの向上がほとんどみられず,個人差が大きかった。また,担任教員の評価とビデオ撮影によるスコアには関連性がみられた。 これらの結果から,動作開始から終了までを一連の流れの中で遂行する運動課題(前回り,投球など)は教材として取り上げやすいが,対象物と身体の位置関係を修正しながら遂行する運動課題(ハードル,開脚とび,捕球,打撃など)は習得が難しいと推定され,体育学習内容の検討に際して示唆となることが期待された。
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