本研究は、野球の投球動作と卓球のフォアハンドストロークを対象に、力学的エネルギー利用の観点から見て効率的な動きの特徴を明らかにすることを目的とした。身体の関節トルクパワーの絶対値を積分して得られる力学的エネルギー消費に対するボールあるいは打具の運動エネルギーの比と全身の運動エネルギーに対するボールあるいは打具の運動エネルギーの比を評価指標として算出した。 野球の投球は、大学男子野球選手19名が3m離れた的に向かって全力で野球のボールを投げる動作を分析した。力学的エネルギー消費に対するリリース時のボールの運動エネルギーの割合が高いほど、ストライド期の後脚の過度の屈伸動作に伴う正負の仕事が小さく、この動作は効率が悪い可能性が示唆された。また、体幹上部の運動エネルギーの投球腕への伝達率が高い人ほど、リリース時に全身の運動エネルギーをよりボールに集中させていることが明らかにされた。 卓球は、男子大学卓球選手20名が下回転ボールを全力で行ったフォアハンドドライブを分析した。力学的エネルギー消費に対するボールインパクト時の手とラケットの運動エネルギーの割合が高いほど、全身の位置エネルギーの増加が少ない傾向があり、過度に位置エネルギーを増加させることは効率が悪い可能性が示唆された。しかし、野球と異なり、体幹の運動エネルギーのラケット腕への伝達率とインパクト時に全身の運動エネルギーをラケットに集中させているとこととの関連は見られなかった。 以上の結果から、位置エネルギーを上手に利用すること、位置エネルギーを上昇させる場合では、筋の仕事を無駄に位置エネルギーの増加に使わないことが効率的であること、運動エネルギーを打具やボールに集中させていることと体幹の運動エネルギーを打具やボールにより効果的に伝えていることとの関連があるか否かは、運動により異なることが示唆された。
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