研究課題/領域番号 |
23500724
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小谷 泰則 東京工業大学, 社会理工学研究科, 助教 (40240759)
|
研究分担者 |
石井 源信 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (20108202)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | スポーツ科学 / スポーツ心理学 |
研究概要 |
近年、機能的磁気共鳴映像法(fMRI)などの脳イメージング技術の進歩により、身体の変化が感情に影響を与えるメカニズムも明らかにされて来ている。特に、脳内の島皮質と呼ばれる領域が「身体と感情」の統合に大きく関与していることが示されている。本研究では、脳イメージング技術を用いて運動経験が感情と関連する島皮質脳内ネットワークにどのような影響を与えるかを検討することを目的としている。 平成23年度は、島皮質関連領域のどこに運動経験の差異が見られるかを検討するために、遅延フィードバック課題における島皮質関連領域の賦活の確認を行うことを目的とした。これまで行ってきた島皮質に関する研究より、自分が行ったパフォーマンスに対する「結果の知識」(フィードバック情報)を与えるような実験課題を設定したときに島皮質の活動が高まることが分かっている。このことを利用しながら、実験課題として遅延フィードバックを伴うタイミング課題を用い、島皮質関連領域(Insula, ACC, OFC)の賦活が生じるか確認した。被験者は、呈示された教示刺激(映像)を見て、設定された課題に対し決められた一定範囲内のタイミングで、意思決定を伴うボタン押しをするよう求められた。ボタン押しの数秒後(ランダムに変化)に、その意思決定が正しかったかどうかを知らせるフィードバック刺激を呈示した。fMRIを用いて課題遂行中の方活動を比較したところ、左右両半球の島皮質の賦活が確認された。このことより、当初の仮説通り、意思決定を伴う運動を実行する場合には、島皮質の活動が伴うことが示され、島皮質ネットワークについて運動経験の有無の影響を調べることの妥当性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)遅延フィードバック課題の作成、(2)被験者(運動経験のある被験者と運動経験のない被験者)の確保、(3)fMRI実験の実施が重要な研究の位置づけになっている。(1)の遅延フィードバック課題の作成においては、心理実験用ソフトウエアを用いて予定通り実験課題を作成することができ、周辺機器との信号の伝達も問題なく行うことができた。また、fMRIスキャナーと刺激用パーソナルコンピュータとの同期も達成でき、分析に必要となる試行中の特定の時間(区間)を同定することも可能になった。また、(2)の被験者の確保も研究分担者を中心に実施したところ、運動経験者、運動未経験者ともに問題なく被験者を確保することができ、十分に経験者群と未経験者群を比較することができる状態になった。さらに、本研究の中心となるfMRI実験は、25名以上の被験者を確保できるなど、ほぼ予定通りに実験を行うことができた。分析においては、島皮質の活動が重要な観点となっており、島皮質が仮説通りに賦活することを確認することは非常に重要な点であった。幸いにも、本研究テーマとなっている島皮質の活動についても設定した実験課題にて仮説通りに賦活することを確認できた。このことからも、今年度の実験は、おおむね順調に進展し、今後、さらに島皮質ネットワークの解析に以降していくことが可能になったものと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の仮説は、島皮質を中心とするネットワークが運動経験の有無に影響を受けるという考えである。そのため、今後の解析では、まず単純な群間比較のみだけではなく、脳賦活部位間のネットワーク解析も中心に行っていく。また、特に島皮質と深い関連のある、前頭前野内側部に焦点を充てて解析を行う。本年度の研究から、ネットワーク解析の分析が当初予定していた以上の時間が必要になることがわかり、予定よりも分析が遅れた部部分があった。そのため、分析に関する費用(大量データ保存装置・分析ソフトの更新費用等)を今年度使用せずに、次年度に使用することとした。 ネットワーク解析は、最適解(もっとも生理学的に妥当な神経モデル)を同定するために、分析を相当回数繰り返しながら行う必要がある。本年度はPPI分析(Pscyhophysiological Interaction)を中心にネットワーク解析を試みたが、今後はPPI分析の分析パラメーターを網羅的に変更しながら、最適解を同定する必要がある。fMRIのデータの場合、被験者一人あたりのデータ量が数ギガバイトを越えるデータ量になる。このデータ量に対し、網羅的に分析を行うと、データ量は数テラバイトに膨れあがる。このため、大量データを保存する装置、及び分析を行えるシステムを複数台構築するための費用を考慮した研究経費の使用方法を次年度以降において検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度はPPI分析(Pscyhophysiological Interaction)を中心にネットワーク解析を行ったが、今後はPPI分析の分析パラメーターを網羅的に変更しながら、最適解を同定する必要がある。このため、大量データを保存する装置、及び分析を行えるシステムを複数台構築するための費用を重点的に配分する。また、次年度では、初年度で得られた、fMRIのデータをさらに詳しく分析していくとともに、研究成果の発表にも努める。研究成果の発表では、国内での発表のみならず、可能な限り海外の国際学会にも参加し、初年度で得ることができた島皮質の賦活に関係する知見を中心に発表を行うこととする。このため、本年度と前年度の経費のうち未使用額を適切に合算しながら、より効率的な研究経費の使用が可能になるよう努める。
|