研究課題/領域番号 |
23500724
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小谷 泰則 東京工業大学, 社会理工学研究科, 助教 (40240759)
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研究分担者 |
石井 源信 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (20108202)
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キーワード | スポーツ科学 / スポーツ心理学 |
研究概要 |
近年、機能的磁気共鳴映像法(fMRI)などの脳イメージング技術の進歩により、身体の変化が感情に影響を与えるメカニズムも明ら かにされて来ている。特に、脳内の島皮質と呼ばれる領域が「身体と感情」の統合に大きく関与していることが示されている。本研究 では、脳イメージング技術を用いて運動経験が感情と関連する島皮質脳内ネットワークにどのような影響を与えるかを検討することを 目的としている。 本研究では、島皮質関連領域のどこに運動経験の差異が見られるかを検討するために、遅延フィードバック課題における島皮質関 連領域の賦活の確認を行うことを目的とした。これまで行ってきた島皮質に関する研究より、自分が行ったパフォーマンスに対する「 結果の知識」(フィードバック情報)を与えるような実験課題を設定したときに島皮質の活動が高まることが分かっている。昨年度は、このこと を利用しながら、実験課題として遅延フィードバックを伴うタイミング課題を用い、島皮質関連領域(Insula, ACC, OFC)の賦活が生 じるか確認し、左右両半球の島皮質の賦活が確認された。 今年度は、分析のパラメータを網羅的に変化させ分析の最適解を求めた。結果の成否の何段は、先行研究をもとにした生理学的な妥当性(Insula, ACC, OFCが賦活するか)を考慮し、また設定した仮説の妥当性なども検討した。その結果、回帰モデルを用いたfMRI分析では、右前部島皮質、前部帯状皮質(ACC)、前頭眼野(OFC)の賦活が確認され、またPPI分析によりこの領域間のネットワークも確認された。また、同様の実験を行い、脳波測定を行ったところ、島皮質に相当する右全部側頭部の賦活も確認され、時間的な活動変化も類推することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)遅延フィードバック課題の作成、(2)被験者(運動経験のある被験者と運動経験のない被験者)の確保、(3) fMRI実験の実施が重要な研究の位置づけになっている。また、さらに分析においては、脳の活動部位を同定する回帰モデルを用いたfMRI分析、また、脳領域間のネットワークを調べるPPI分析(Pscyhophysiological Interaction)、さらに特定の脳領域に注目してその活動を調べるROI(Region of Interest)解析などを行う必要がある。本年度は、fMRI分析のパラメータ(ボクセルサイズ、pre-processingのパラメータなど)、PPI分析の分析パラメーター を網羅的に変更しながら、最適解を同定する作業がひとつの大きなテーマであった。脳波の測定も行い、時間的な変化についても検討を行うことも目的とした。fMRIの分析では、ボクセルサイズやNormalization(脳の形を標準脳に合わせる処理)の手法について細かな調整を行った。また、PPI分析ではシード領域(分析の出発点となる脳領域)を順次変更して分析を行っていくなど、大量データを適切に処理素津事ができた。また、脳波データより3次元のトポグラフィーマップを描くこともでき、時間的な検討も行うことができた。以上のことより、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のバックグランドになっている考えは、「島皮質は身体からの情報を統合し、感情(身体イメージ)を作り出している」というCraig(2009)によって提案された仮説が基になっている。そのため、今後の研究では以下のような点を中心的に検討する必要がある。 (1)島皮質に対するROI(region of interest)解析 (2)島皮質の活動と主観的感情との相関 これまでのところ、通常の回帰分析を用いたfMRI分析において、島皮質の活動を確認している。しかし、賦活の基準を最も厳しい(p < 0.05 corrected)を用いていることもあり、右半球の島皮質のみの賦活しか確認できていない。予備的な分析において、後部島皮質も含む島皮質全体のROI解析を行ったところ、左の島皮質においても賦活していることが確認できており、今後は左の前部島皮質にも注目し、果たして左前部の島皮質も賦活しているのかを確認する必要がある。このデータとこれまでの結果を比較することにより、身体情報の半球間への影響を調べることが可能になり、「右半球の島皮質が優位に働くのは、心臓が身体の左側に位置しているからではないか」などの仮説を検証することができる。もしこのことが明らかにできれば、「身体」>「島皮質」>「感情」の関連がより明らかにすることができるものと考えられる。 また、これらのモデルのエビデンスを高めるために、右全部島皮質と主観的感情(快・不快)との相関を見ることも必要になる。この両者の関係が明らかにできれば、島皮質ネットワークの身体への関与をさらに詳しく検証することが可能になるものと思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、ほぼ予定通りに研究が進んだが、2012年度に予定されていたfMRI用の分析ソフト(SPM12)のリリースが発表されなかったために、それに関係する費用(分析用高機能PCの購入など)を使用できなかった。そのために、未使用額が発生したが、次年度にSPMの新バージョンが発表されることが確定し、今年度未使用分は次年度に当該ソフトを利用するための費用として使用する予定である。 次年度の研究費の使用計画としては、通常の実験実施のための物品日の他に、研究成果の発表のための経費(成果発表のための旅費・論文投稿に関する経費)、謝金等を例年よりも多めに支出する予定である。研究期間の最終年度に当たることから、これまでの研究の成果を国内学会・国際学会にて発表するともに、可能であれば論文の投稿まで行う予定である。さらに深い分析を実施するためにプログラミングの知識が必要になる。そのために、プログラミングの補助をしてもらえるよう謝金等を支出する。プログラミングでは、分析の自動化の他に、ROI解析や相関解析で必要となる脳の特定領域の活動値(重回帰分析の回帰係数に相当)を抽出できるようなプログラミングを作成する。これまでは、世界的な標準的な解析方法であるSPMというソフトを用いた回帰分析のみであったが、相関分析を用いることにより、より行動・感情との関連性を明らかにできる。 実験遂行のための経費に関しては、被験者の謝金を支出すると共に、脳波測定のための電極の購入、分析のための経緯等を支出する予定である。
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