研究課題/領域番号 |
23500727
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
寳學 淳郎 金沢大学, 保健管理センター, 准教授 (70313822)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 東ドイツスポーツ史 / インタビュー調査 |
研究概要 |
本研究は、社会主義の模範と言われ、スポーツ分野でも世界の注目を集めた東ドイツのスポーツ史を再構成するための基礎的研究として、ドイツ再統一後20年を経た今、旧東ドイツスポーツ関係者にインタビュー調査を行い、彼らが東ドイツスポーツ及びその周辺について語るものを検討するものである。研究期間内では、可能な限り様々な分野の数多くの関係者に会い、インタビューをしたいと考えているが、先ずは自叙伝的著作を著した著者へのインタビューを実施したいと考えている。昨年度までに彼らの自叙伝的著作の内容を分析してきたので、彼らの関心などが大筋理解されているからである。 平成23年度の計画は、旧東ドイツのスポーツジャーナリストK.フーン氏などから紹介を受け、個別に旧東ドイツスポーツ関係者を訪ね、インタビュー調査を行い、語られた内容を分析することにあった。G.A.シュアー氏にインタビューすることが同年度の最大の目標であったが、当初予定のなかったU.ヴィレ氏へのインタビューにも成功した。前者は東ドイツの全時代を通じて最も著名なスポーツ選手であるとともに、長く政治活動にも携わった東ドイツスポーツ界で重要な人物の一人であり、後者は東ドイツ時代とともに、再統一後のドイツにおいてもトレーナーを務めた数少ない人物である。G.A.シュアー氏へのインタビューでは、彼の自叙伝的著作において不明な点などを直接確認することができ、また、U.ヴィレ氏へのインタビューでは、同氏が東ドイツスポーツ及び再統一後のドイツスポーツをどの様に捉えているのかを聞くことができ貴重であった。具体的内容としては、東ドイツ初期におけるソビエトスポーツの影響、スポーツにかかわるボランティアを保障する制度、スポーツ関係法規、職場スポーツ共同体、スパルタキアード、東ドイツ及び東ドイツスポーツの良かった点、ドーピングなどについて聞くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、旧東ドイツスポーツ関係者にインタビュー調査を行い、彼らが東ドイツスポーツ及びその周辺について語るものを検討するものである。これらの言説分析によって、社会主義国家であった東ドイツの社会やスポーツを理解するための様々な手がかりを得ることが予想される。 平成23年度には、2名(G.A.シュアー氏とU.ヴィレ氏)へのインタビュー調査に留まったが、研究はおおむね順調に進展していると言えよう。その理由は、先に述べたように、東ドイツスポーツ界で重要な人物の一人であり、自叙伝的著作も著してるG.A.シュアー氏へのインタビューに成功したからである。このインタビューは、K.フーン氏の紹介なしには不可能であった。また、既に面識のあるH.ヘトリッヒ氏の紹介により、予想外にU.ヴィレ氏にインタビューできたことも貴重であった。U.ヴィレ氏は自叙伝的著作を著していないが、先に述べたように東ドイツスポーツ界で重要な人物の一人であったからである。旧東ドイツスポーツ関係者の多くは高齢者であり、住んでいるところも違うので、一箇所での会議形式のインタビューは実施できず、彼らへのインタビューは既に面識のある関係者から紹介を受け、地道に行わねばならないのが現状である。 その他、G.A.シュアー氏とU.ヴィレ氏から、自叙伝的著作を著した旧東ドイツスポーツ関係者の現状を聞くことができたことも収穫であった。M.ザイフェルトは既に亡くなり、K.アンプラーは病気であるが、病気を伝えられてきたH.レックナーゲルは元気であるとのことであった。このような情報は日本では得にくく、貴重であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降も、可能な限りドイツへ赴き、旧東ドイツスポーツ関係者へのインタビュー調査を継続したいと考えている。 平成24年度には、平成23年度にポツダム大学のH.J.タイヒラー教授から紹介されたI.ガイペル女史へのインタビューをまず行いたいと考えている。その理由は、今までインタビューに成功したG.A.シュアー氏、U.ヴィレ氏、H.ヘトリッヒ氏、K.フーン氏はみなドイツ再統一後も東ドイツの社会やスポーツを擁護する立場であり、それとは異なる立場の旧東ドイツスポーツ関係者にインタビューする必要性を感じているからである。I.ガイペル女史は旧東ドイツの著名な陸上選手であったが、ベルリンの壁崩壊後すぐに西へ移り、東ドイツのドーピングを徹底して糾弾するとともに、重要な著作を出版している。また、申請者は東ドイツスポーツ史研究には「世代」という視点が重要と考えており、その意味においても、今までインタビューを行った東ドイツスポーツ関係者より若い世代に属するI.ガイペル女史へのインタビューは重要と考えられる。I.ガイペル女史とのコンタクトは既に取れており、インタビュー実現の可能性は高いと考えている。 そして、自叙伝的著作を著した著者へのインタビューも、既にインタビューを行った東ドイツスポーツ関係者の紹介を得て、継続して行いたいと考えている。特に、H.レックナーゲルやG.ゼイフェルトへのインタビューの可能性をまず探っていきたい。 ただ、どうしても計画どおりに進まなかった場合には、ドイツのW.ブス教授やH.J.タイヒラー教授の支援を受けつつ、自叙伝的著作の著者以外の関係者に対するインタビューの可能性も探っていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の研究費が残った理由は、実際には先方の都合で結局実現できなかったが、平成23年度中に、先に述べたI.ガイペル女史へのインタビューを行える可能性があり、彼女へのインタビューをとても重要視していたことから、研究費を使用せず、残しておいたためである。 前年度残った研究費も含めた次年度の研究費においても、可能な限りドイツへ赴き、一人でも多く、旧東ドイツスポーツ関係者へのインタビューを行いたいと考えている。特に、I.ガイペル女史へのインタビューは次年度中に確実に実現したいと考えている。I.ガイペル女史から他の旧東ドイツスポーツ関係者(K.フーン氏やG.A.シュアー氏などと立場が異なる者も含む)の紹介も期待できるからである。 また、H.レックナーゲルやG.ゼイフェルトなど自叙伝的著作を著した著者にも、コンタクトが取れ次第、インタビューを行いたいと考えている。 したがって、平成24年度の研究費も、インタビューするための調査旅費に(謝金を含む)に主に使用する予定である。ドイツへの旅費や滞在費は高額となるが、本研究を計画通りに進め、東ドイツ時代の社会やスポーツの状況を把握するために必要である。 その他、次年度では、東ドイツ史及び東ドイツスポーツ史関係の文献・論文の購入・複写や、インタビューの方法や現代史研究を深化させるための文献・論文の購入・複写などにも研究費を使用する予定である。
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