研究課題/領域番号 |
23500727
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
寳學 淳郎 金沢大学, 保健管理センター, 准教授 (70313822)
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キーワード | 東ドイツスポーツ史 / 現代史 / インタビュー調査 |
研究概要 |
本研究は、社会主義の模範と言われ、スポーツ分野でも世界の注目を集めた東ドイツのスポーツ史を再構成するための基礎的研究として、ドイツ再統一後20年を経た今、旧東ドイツスポーツ関係者にインタビュー調査を行い、彼らが東ドイツスポーツ及びその周辺について語るものを検討するものである。 I.ガイペル女史へのインタビューを確実に行うことが当該年度の課題であった。その理由は、今までインタビューに成功したG.A.シュアー氏、K.フーン氏などはみなドイツ再統一後も東ドイツの社会やスポーツを擁護する立場であり、それとは異なる立場の旧東ドイツスポーツ関係者にインタビューする必要性があったからである。旧東ドイツの著名な陸上選手であったが、ベルリンの壁崩壊時に西へ移り、東ドイツの組織的ドーピングを徹底して糾弾し、それにかかわる重要な著作を著している彼女へのインタビューは重要であった。また、東ドイツスポーツ史研究には「世代」という視点も重要と考えており、今までインタビューを行った東ドイツスポーツ関係者より若い世代に属する彼女へのインタビューは意味があった。 ポツダム大学のH.J.タイヒラー教授の仲介によりインタビューは実現した。東ドイツ時代における彼女に対する説明なしの薬の提供(ドーピング)や手術、監視(シュタージ)、広告塔としての彼女の利用(スポーツ選手の政治的利用)など、従来殆ど知られていない彼女自身にかかわる事柄を直接聞けたことが今回のインタビューの成果の一つであった。また、東ドイツ時代を経験し、再統一後もドイツで暮らす彼女のドーピング被害者の実情、ドーピング糾弾者に対する嫌がらせ、ドーピング関係の著作の出版動機、旧東ドイツスポーツ関係者の東ドイツスポーツに対する立場の相異などに関する見解は、公文書類や著作等からは窺うことのできない貴重なものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、旧東ドイツスポーツ関係者にインタビュー調査を行い、彼らが東ドイツスポーツ及びその周辺について語るものを検討するものである。これらの言説分析によって、社会主義国家であった東ドイツの社会やスポーツを理解するための様々な手がかりを得る ことが予想される。 平成24年度は、1名へのインタビュー調査に留まったが、研究はおおむね順調に進展していると言えよう。理由は、東ドイツスポーツ最大のネガティブな遺産とされるドーピングについて重要な著作『見失われた競技:あるドーピング訴訟日誌』(2001年)を著し、ドイツにおけるドーピング裁判にも大きな影響を与えたI.ガイペル女史へのインタビューに成功し、ドーピングの実情などについて話が聞けたからである。また、先にも述べたように、今までインタビューに成功したG.A.シュアー氏などはみなドイツ再統一後も東ドイツの社会やスポーツを擁護する立場であったが、それとは異なる立場の旧東ドイツスポーツ関係者にインタビューできたこと、今までインタビューに成功した人物はすべて男性であったのに対し女性にインタビューできたこと、今までインタビューに成功した人物より若い世代に属する人物にインタビューできたことは、本研究の質を高めたと考えられる。 その他、I.ガイペル女史から旧東ドイツスポーツ関係者の現状を聞くことができたことも収穫であった。旧東ドイツスポーツ関係者へのインタビューは既に面識のある関係者から紹介を受け、地道に行わねばならないのが現状である。今回のインタビューも東ドイツスポーツ史研究の第一人者であるポツダム大学のH.J.タイヒラー教授の紹介なしには不可能であった。I.ガイペル女史からは、著名な女子陸上であったがドーピングの後遺症に悩まされているA.クリューガーなどは紹介できることなどの情報も得た。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間内では、可能な限り様々な分野の数多くの関係者に会い、インタビューをしたいと考えているが、先ずは自叙伝的著作を著した著者達へのインタビューを実施したいと考えている。前回の科研費による研究において、彼らの自叙伝的著作の内容を分析してきたので、彼らの関心などが大筋理解されているからである。 代表的な自叙的著作を著した著者へのインタビューについて、昨年度までに、G.A.シュアー氏、H.ヘトリッヒ氏、K.フーン氏、I.ガイペル女史へのインタビューに成功した。M.ザイフェルト氏、M.エヴァルト氏は既に亡くっており、K.アンプラー氏は病気という情報を得ているので、次年度には、R.フクス女史、K.ヴィット女史、G.ゼイフェルト女史、H.F.エルテル氏、N.ロガルスキー氏、R.レックナーゲル氏に対し、一人でも多くインタビューを行いたいと考えている。R.レックナーゲル氏についてはH.ヘトリッヒ氏から既に可能性を伝えられているが、できれば、G.ゼイフェルト女史にもインタビューも行いたいと考えている。理由は、I.ガイペル女史以外の女性、そして、I.ガイペル女史より上の世代の女性にインタビューする必要性を感じているからである。もし、代表的な自叙的著作を著した著者へのインタビューが不可能であった場合には、H.ヘトリッヒ氏、I.ガイペル女史、H.J.タイヒラー教授などの支援を受けつつ、自叙伝的著作を著した著者以外の関係者に対するインタビューを行いたいと考えている(例えば、A.クリューガー女史)。 また、来年度は期間内に行ったインタビューを纏める作業にも取り組み、学会等で発表したいと考えている。その際には、インタビューした関係者の東ドイツ及び再統一後ドイツでの立場、性差、世代などに言及したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では数多くの旧東ドイツスポーツ関係者にインタビューを行うことを重要視している。平成24年度の研究費が残った理由は、平成25年度においてもインタビュー調査を引き続き行いたいと考えたためである。 前年度残った研究費も含めた次年度の研究費は少ないが、メール交換など入念に準備した上でドイツへ赴き、一人でも多く、旧東ドイツスポーツ関係者へのインタビューを行いたいと考えている。先述したように、自叙伝的著作を著している関係者の中でもR.レックナーゲル氏とG.ゼイフェルト女史にまずインタビューも行いたいと考えているが、R.フクス女史、K.ヴィット女史、H.F.エルテル氏、N.ロガルスキー氏へのインタビューの可能性も探っていきたい。もし、彼らへのインタビューが不可能であった場合には、旧東ドイツスポーツ関係者に広い人脈を持ち既に面識のあるH.ヘトリッヒ氏、K.フーン氏、I.ガイペル女史や、長年交流のある東ドイツスポーツ史研究で著名なH.J.タイヒラー教授などの支援を受けつつ、自叙伝的著作を著した著者以外の関係者に対するインタビューを行いたいと考えている。 したがって、平成25年度の研究費も、インタビューするための調査旅費に主に使用する予定である。ドイツへの旅費や滞在費は高額となるが、本研究を計画通りに進め、東ドイツ時代の社会やスポーツの状況を把握するために必要である。インタビュー調査関係では、旅費・滞在費の他、インタビュー相手への謝金や通訳費に研究費を使用する予定である。 その他、本研究を纏めるための作業にかかる費用や、纏めたものを学会等で発表するための費用などにも次年度の研究費を使用する予定である。
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