研究概要 |
本研究は,日本とケニアの長距離選手を対象に,下肢における筋と腱両組織の形態,ならびに生理・力学特性を計測し,競技パフォーマンスの変化との関連について検討することを目的とした.本年度においては,日本における成人選手のデータを追加すると共に,前年度までに取得したデータの分析と整理を行い学会発表と論文投稿を行った.分析の結果,ケニアの長距離選手の形態は,日本選手に比べ,有意に長い下腿とアキレス腱を有し,アキレス腱の太さも有意に太いものであった.また,ケニア選手の受動背屈トルクが日本選手と比べて非常に大きい事が明らかとなり,その差異は特に足関節底屈位において大きかった.筋と腱の力学的特性の分析からは,ケニア選手の筋組織のstiffnessと,形態の差異を考慮したヤング率が日本選手よりも有意に高いことが示され,アキレス腱の両パラメータには統計的な違いがなかった.これらの結果から,ケニア選手は硬い,あるいは,たるみの少ない筋組織をもっており,そのことで足関節の受動トルクが大きく,ランニング時の接地期に必要な足関節トルクを少なくすることができていると考えられた.実際にランニング中に計測した筋活動量も日本人選手よりも小さく,このことが,ケニア選手の高い走行率と競技力の高さを可能にしていることが示唆された.加えて,日本選手内においても,競技力と足関節の受動トルク,ならびに,筋組織のstiffnessが正相関することが示された.したがって,本研究全体を通じて,長距離走で高い競技力を達成するためには,足関節の受動トルクが高く,筋組織がstiffであることの重要性が示唆された.得られた知見は陸上競技のみならず持久力を 必要とするスポーツにおけるタレント発掘,トレーニング手法の改良・開発の基礎資料として貢献することが期待できる.
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