スポーツパフォーマンスの実行に際し、心身の最適な状態への微調整が重要である。このためには身体感覚に対する気づきを獲得することが有効である。本研究では、競技力に反映される肉眼で観察不可能なスポーツパフォーマンスを非侵襲的な生理指標の振る舞いから記述し、「覚醒」、「情動」、そして「認知」の側面から評価し、その心身相関を明らかにすることを試みた。 生理指標は従来から採用している心電図、呼吸位相曲線、眼電図、血中酸素化ヘモグロビン動態に加えて、本研究助成によって連続動脈血圧の測定が可能となり、刻一刻と変化する大脳辺縁系由来の心臓血管系、呼吸器系の反応を記録し分析した。競技力に反映される気分評価や認知的評価には質問紙を、またパフォーマンス実行の同定には運動遂行の他、アイマークレコーダや反応時間も適宜採用して実験を行った。 生理指標と心理指標の経時的測定および分析から、競技前における覚醒および快の感情価と、心拍数や収縮期血圧との正の相関関係がみられ、心臓側由来の能動的なストレス反応が観察された。一方、競技中には逆に心拍数との負の相関や拡張期血圧との正相関関係がみられ、末梢血管系が支配する受動的なストレス反応が認められた。さらに、競技中の快と覚醒の双方の上昇の結果である興奮状態では血圧上昇を、不快―高覚醒状態によってもたらされる不安状態では前額局所酸素動態の酸素化ヘモグロビン増加が惹起された。 ストレス状況を操作し、身体の状態を主として覚醒と情動の二次元および認知の観点からスポーツ場面の心身相関を示した。最終年度およびその前年度には国内・国際学会において研究成果を報告する貴重な機会を得た。
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