研究課題/領域番号 |
23500735
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
川本 真浩 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (20314338)
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キーワード | コモンウェルス / 英連邦 / エンパイア・ゲームズ / イギリス帝国 / スポーツ / 歴史 |
研究概要 |
年度全体をとおして、前年度に入手した史資料を整理しながら、新たに多くの史料を閲覧・入手し、それらと関連する二次文献をあわせて分析及び考察を進めた。その主たる成果として次の2点があげられる。 もっとも特筆すべき成果は、スコットランドのエンパイア・ゲームズ国内協会にあたるスコットランド全国スポーツ連盟の文書を閲覧できたことである。同史料から先行研究では看過されていた創成期エンパイア・ゲームズの実情とあわせてスコットランドにおけるスポーツ界の組織化とエンパイア・ゲームズひいては帝国との関係が明らかになった。スコットランドでは、他の本国内ネイション(イングランドとウェールズ)に先んじて国内協会が設立されたが、大会開催地の決定や変更に関する中央(エンパイア・ゲームズ連盟)からの周知不徹底に対して不平が出るなど、本国の一部を構成する団体でありながら大会統括事業のなかでは周縁的位置にあったことが明らかになった。 2つめの成果として、大会への選手と役員の派遣をめぐる財政問題に着目することで、政治とスポーツのかかわりかたの変遷を解明していったことがあげられる。P・J・ベックによるロンドン・オリンピック(1948年)にかかる研究から議論を広げるべく、公文書館などが所蔵する史料からイギリスの政界・官界とスポーツ界との関係が変貌をとげていくさまを明らかにした。とくに1940年代から60年代にかけてのエンパイア・ゲームズ/コモンウェルス・ゲームズへの選手派遣費用にかかる政府部内での議論や国内スポーツ団体の動きを史料に追い、考察した。 以上のようなことから、エンパイア・ゲームズ/コモンウェルス・ゲームズが帝国=コモンウェルス史のサイドストーリーにとどまらない政治と文化の歴史的実相をとらえるきわめて重要な題材であることがますます明白になってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
諸団体の文書、新聞資料、大会刊行物など、第2次世界大戦前後のエンパイア・ゲームズ及び20世紀半ば以降のコモンウェルス・ゲームズにかかわる史資料を閲覧・収集し、内容の整理ならびに基礎データの作成をおこない、考察を進めた。 とりわけ、今年度の大きな収穫は、当初は想定していなかったスコットランド全国スポーツ連盟(現在のコモンウェルス・ゲームズ・スコットランド)の設立初期からの史料を所蔵先のスターリング大学(スコットランド)で閲覧できたことである。従来の研究では明らかにされていない実情を把握することができた。そのほか、国立公文書館(The National Archives)、コモンウェルス事務局図書館、オクスフォード大学、エディンバラ市中央図書館などが所蔵する史資料も閲覧・活用して作業を進めることができた。 以上のように、研究事業としては大きな進展と成果をみることができたが、当初の予定にはなかったスコットランドの史料に対応する時間と費用を要したために、昨年度末の時点で予定していたオーストラリア及びニュージーランドでの史料調査は実施できなかった。これらのことを合わせ考えると、「現在までの達成度」は「おおむね順調に進展している」と自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は当該研究課題に対する助成の最終年度にあたるため、もっぱらこれまでに渉猟・収集した研究文献や一次史料の整理と分析及び考察を進める。まずはスコットランドで得られた史料を中心にすえてエンパイア・ゲームズ創成期の実情を解明する論稿をまとめる。さらに、開催事業をめぐる困難をとおして政治とスポーツの関係について、最新の研究文献とは異なる視角をもって整理していく。 また、これまでに収集した史資料を補完するデータを入手するために、カナダにある文書館等にて史料調査を実施する。調査時期は8月下旬から9月上旬にかけての約1週間、調査実施機関(調査地)は連邦文書館(オタワ)とハミルトン市図書館(ハミルトン)を予定している(詳細は次項参照)。 上述のような史料の整理と成果の中間的なとりまとめ及び史料調査をふまえたうえで、年度後半には研究全体の総括と成果のとりまとめを行う。具体的な作業内容は、(1)論文の執筆と学会誌への投稿(2)当該テーマにかかる学会(または研究会)での発表のための原稿及び資料の作成(3)当該研究課題にかかる最終報告書の作成、の3点である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度から次年度に研究経費が繰り越される最大の理由は、スターリング大学図書館(スコットランド)が所蔵するスコットランド国内協会の史料をはじめとして、イギリス各地の諸機関が所蔵する文書を収集し活用することが当該研究課題についてより高い成果を得るために有用であるとの判断から、当初の史料調査計画を変更したためである。この変更によって、当初予定していたオーストラリア及びニュージーランドでの史料調査と実際に実施したスコットランドでの史料調査の差額相当分が繰越額となった。また、研究課題関連図書の購入にかかる費用が当初の見込みを大幅に下回ったことも繰越額が生じたもうひとつの理由である。 こうした繰越額と当初からの配分額をあわせた次年度の研究費については、次のように使用する計画である。まず、8月下旬から9月上旬にかけて約1週間の予定でカナダにおいて史料調査を実施する。調査実施機関(調査地)は連邦文書館(オタワ)とハミルトン市図書館(ハミルトン)を予定している。複写・印刷費や文具等購入費など前項で述べたような研究とりまとめ作業のために要する最低限の費用は確保しながら、次年度に使用可能な助成額の大部分はカナダでの史料調査に充てる予定である。
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