研究課題/領域番号 |
23500736
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中西 純司 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90243849)
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キーワード | スポーツ経営 / サービス・クオリティ / 顧客満足・不満足 / 顧客苦情 / 顧客苦情行動 / 顧客ロイヤルティ / 顧客苦情マネジメント戦略 / サービス・リカバリー |
研究概要 |
本研究では,「苦情は顧客からの贈り物」(Barlow and Moller,1996)というポジティブな観点から,スポーツ経営における「顧客苦情マネジメント」理論を構築していくために,民間スポーツ・フィットネスクラブ(以下,「民間クラブ」という)経営に焦点をあてながら,課題A:顧客苦情マネジメント戦略研究,課題B:顧客苦情行動研究,課題C:サービス・クオリティ/顧客満足・不満足研究の3つを設定し,3年間の研究を進めている。 今年度は,昨年度に引き続き,「民間クラブ側は顧客としてのクラブ会員の苦情行動に対してどのような顧客苦情マネジメント戦略を実践しているのか」(課題A)について,より詳細な研究を進めた。はじめに,昨年度に実施した「民間クラブの顧客苦情マネジメント戦略に関する調査」の分析結果(198,19.8%の有効回収数・回収率)に基づいて,顧客苦情マネジメント戦略モデルに関する仮説的構成概念とインディケータを抽出した。具体的には,苦情マネジメント体制3項目,苦情哲学3項目,苦情促進4項目,苦情マネジメント技術2項目,苦情対応プロセス3項目,苦情処理・分析・報告4項目,そして苦情情報フィードバック3項目,といった7次元22インディケータを設定した。 続いて,こうした7次元22項目を含む「顧客苦情マネジメント戦略調査票」を作成し,全国の民間クラブ1,000ヶ所(無作為抽出)を対象に,平成25年2月1日~2月28日にかけて配付郵送調査法による質問紙調査を実施し,137,13.7%の有効回収数・回収率を得た。その結果,(1)苦情を会員からの「贈り物」と捉えている民間クラブが18.2%と低いこと,(2)顧客苦情マネジメント戦略モデルが苦情マネジメント体制づくり,苦情促進,苦情対応プロセス,苦情処理・分析,苦情情報フィードバックといった5つで構成されること,などが明確にされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,前年度の課題であった「課題A:顧客苦情マネジメント戦略研究」の成果と理論を踏まえた上で,「課題B:顧客苦情行動研究」まで着手する予定であり,そのための予算も計上していた。しかしながら,課題Aの実施にあたって,民間クラブ経営における顧客苦情マネジメント戦略モデルに関する仮説的構成概念とインディケータの抽出,及び顧客苦情マネジメント戦略に関する質問紙調査票の作成に多大な時間を取られ,配付郵送調査法による質問紙調査の実施(郵送と迅速な回収)が予定よりもかなり遅れてしまったため,課題Bの遂行が5割程度しか進んでいない。 具体的には,課題Aにかかわる調査データ整理・加工作業(エディティング・コーディング・データ入力などの諸作業)及び統計解析ソフト(IBM SPSS Statistics Base 21.0)による集計・分析作業が終わり,民間クラブ経営における顧客苦情マネジメント戦略モデルを実証的に構築し終えたところである。また,課題Aから得られた貴重な研究成果については,日本体育学会第64回大会(平成25年8月28~30日,立命館大学びわこ・くさつキャンパス)において口頭発表するようエントリーしているが,学術団体等が発行する学術雑誌への投稿(原著論文)や,調査協力クラブへの「調査研究報告書」の作成・配付などを行えていない状況にある。しかし現在,こうした顧客苦情マネジメント戦略モデルとの関連性を踏まえるとともに,国内外における先行研究の知的成果を活用しながら,民間クラブ会員の顧客苦情行動モデルの構造化・精緻化と質問紙調査票の作成といった課題Bにかかわる研究作業を鋭意進めているところである。 以上のような達成状況に鑑み,「(3)やや遅れている」という自己評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては,平成24年度中に遂行すべきであった,以下のような諸手続きを円滑に実行することが最優先課題である。 (1)「課題A:顧客苦情マネジメント戦略研究」については,顧客苦情マネジメント戦略モデルの分析枠組みに従って,多変量解析や共分散構造分析などを用いた統計分析を行い,研究成果の公開準備(調査研究報告書の作成・配付及び学術雑誌への論文投稿など)に取りかかる。 (2)上記(1)の分析結果を踏まえた上で,課題B「不平・不満を持ったクラブ会員(退会・離脱者を含む)はどのような苦情行動を選択し,民間クラブ側の顧客苦情マネジメント戦略,特にサービス・リカバリー戦略に対してどのような反応をしている(した)のか」について吟味していくために,「顧客苦情行動とサービス・リカバリー戦略との因果関係に関する基本理論モデル」を構築し,そうした基本理論モデルからいくつかの有益な仮説群を演繹する。 (3)上記(2)で演繹された仮説群を検証し基本理論モデルの信頼性と妥当性を確認するために,今年度,回収できた民間クラブの中からブロック毎に1クラブの合計6ヶ所を無作為抽出し,各民間クラブ(経営者・支配人)を訪問し,クラブ状況事前調査を実施するとともに,既存クラブ会員と退会・離脱クラブ会員の両方に対する調査の趣旨説明と調査実施依頼を行う。そうした事前調査の結果を基に,「顧客苦情行動とサービス・リカバリー戦略に関する質問紙調査」を作成し,留置調査法による質問紙調査を実施し,調査票の回収と調査データ入力作業等が終了し次第,速やかに,統計解析ソフトによる調査データ分析作業に取り組む。 今後,上記の諸手続きと同時に,課題C「クラブ会員の苦情行動の源泉となる,『サービス・クオリティ』と『顧客満足・不満足』という評価概念はどのように違うのか」(平成25年度)についても,継続的・計画的に遂行していくこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においては,平成24年4月1日付けで現在の所属研究機関に着任したことに伴って,新たな教育・研究環境下での担当授業科目の準備や研究費執行手続き方法などに適応するのに時間がかかり,また研究活動以外の業務が当初の想定を上回った。それゆえ,「11.現在までの達成度」でも自己評価したように,(1)課題Aに関する,学術論文(原著論文)の投稿と調査研究報告書の作成・配布,(2)課題Bにかかわる研究作業の円滑な遂行といった2つの手続きを終了させることができず,これらの手続きに充てるはずの研究費が未使用となってしまった。したがって,今後の推進方策でも説明したように,こうした2つの手続きと平成24年度未使用研究費の適正かつ円滑な執行を平成25年7月下旬頃までには終了させるよう努める。 これらの諸手続きと同時並行しつつも,平成25年度8月初旬頃からは,課題C「クラブ会員の苦情行動の源泉となる,『サービス・クオリティ』と『顧客満足・不満足』という評価概念はどのように違うのか」について吟味するために,課題A・Bの諸成果なども踏まえて,「サービス・クオリティと顧客満足・不満足との因果関係モデル」を構築し,いくつかの有益な仮説群を演繹する。また,「既存クラブ会員のサービス・クオリティと顧客満足に関する質問紙調査票」を作成し,課題Bの遂行で無作為抽出した合計6ヶ所の民間クラブの既存クラブ会員に対する調査を再依頼し実施する。最後に,調査票回収後,調査データの整理・加工を行い,統計解析ソフトにより因果関係モデルの有効性について検証し,研究成果の公開を行っていく。 以上のような研究計画に従って,平成24年度未使用研究費及び平成25年度研究費とも,「平成23年度交付申請書」(平成23年5月23日作成)の助成金額及び「平成25年度分支払請求書」(平成25年2月12日作成)の請求額の通り適正に執行する。
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