本研究は、農山村のスポーツ活動に関する実証的研究をもとに、人口減少・超高齢化社会におけるスポーツとコミュニティ形成について検討することを目的とした。まず、本研究の理論的背景となる「生活農業論」に学び、地域スポーツ組織活動分析に対する生活論的アプローチについて検討した。ここでは、対象となる地域社会全体を俯瞰し、そこに関わる様々な生活領域を相互連関的に捉え、個々のスポーツ活動を埋め込みながら動的に分析することの重要性を指摘した。実証的研究では、熊本県阿蘇郡小国町及び球磨郡五木村を対象に分析を試みた。小国町における地域組織活動は、地域生活の単位と密接に結びつき、相互に規定し合う関係にあった。地域の事情に合わせて地域生活の枠組みを利用しながら開催されてきた伝統的体育行事も、住民の地域生活の場を引き継ぐという社会的な意味を担っていた。小国町では、個人化した市民的な暮らしへの再編に「同調するスポーツ」と地域に引き継がれてきた安定した暮らしを「継承するスポーツ」のせめぎ合いの状況を確認することができた。一方、五木村における地域スポーツ活動は、村特有の「緩やか」な時間・空間の中で営まれ、組織内の関係性を再構築することにより限られたメンバーでの活動を可能としてきた。さらに、村に引き継がれてきた歴史的・社会的な関係性を投影しながら、状況に応じた「やり方」を駆使することによってどうにか活動を維持してきたのである。瓦解していく村と常に対面しながら維持されるスポーツ活動は、それを実践する村民たちに、スポーツのみならず村とともに暮らしていく「やり方」をも要請するのであった。このように、近年、スポーツとコミュニティ形成に関する議論で主張される「公共圏」の創出とは異なり、スポーツを実践する主体が多様な地域生活との関係を切り結ぶことにより、地域コミュニティの一員となり得る可能性を示すことができた。
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