わが国における学校運動部活動の運営形態をめぐる議論は,総合型地域スポーツクラブ育成を中心的戦略とした各種スポーツ政策の施行に伴い,学校外との関係構築動向へ一層傾斜しつつある.本研究では,今後のコミュニティスポーツにおける「新しい公共」の創出過程を念頭に置き、部活動と総合型クラブの関係構築動向に対する批判的検討を試みながら,学校内存在を基軸とした部活動運営形態の正当性について議論した.具体的な研究方法としては,部活動と総合型地域スポーツクラブの関係性を一旦は構築したものの,結果的に関係性の解消をみるに至った事例を取り上げ,そこに関与した教師数名に対するインタビュー調査を実施した. 研究事例(フィールド)における部活動と総合型クラブの関係構築は,ある一人の保健体育教師の積極的な行動により実現した.わが国における学校教員の多くは,日常的な部活動指導に対する負担感を抱いている.当該事例の学校外スポーツ活動との連携は,他の教員たちにとっても歓迎される動きであった.しかしながら,学校外との関係が進行する中で,教員の意識には変化が生じ始めた.調査活動では「地域住民との関係に対する煩わしさ」「学校教育としての部活動観」「学校外活動への無関心」等の教員文化の諸相を確認した.それらの意識もあり,当該事例における部活動と総合型クラブの関係構築は失敗に終わる.結果的に本研究では,今日のわが国におけるスポーツ政策内容の陥穽を見出すことになった.すなわち,現在のスポーツ政策は,学校を含めた地域における総合的なスポーツ環境の創造が目指されているが,学校においてスポーツを支えてきた教員の活用視点が欠落している.教員のスポーツ指導をめぐる評価のシステムをはじめとした「教員が生かされる」機会としての部活動運営形態が検討されない限り,わが国のスポーツ構想(「新しい公共」の創出)の実現は困難なのである.
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