研究課題/領域番号 |
23500774
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大森 肇 筑波大学, 体育系, 教授 (20223969)
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研究分担者 |
宮川 俊平 筑波大学, 体育系, 教授 (10200130)
宮崎 照雄 東京医科大学, 医学部, 助教 (60532687)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | タウリン / 長時間運動 / 血糖低下抑制 / 骨格筋 / 糖原性アミノ酸 / 肝臓 / 糖新生 |
研究概要 |
長時間運動では血糖が低下し、中枢性疲労の一因となる。我々は非鍛錬者に自転車漕ぎを負荷し、血糖低下がタウリン投与で抑制されることを示した(石倉ら,2007)。また、ラットに3%タウリン水溶液を3週間投与することで筋タウリン濃度が上昇し、疲労困憊時間が延長すると報告した(Ishikura et al., 2011)。その際、タウリン投与により筋のスレオニン、セリン、グリシンが減少して肝臓に移動し、血糖維持のために肝糖新生に使われると推測した。しかし、その研究では尾静脈採血のため走行中の連続採血ができず、そのため疲労困憊時間はタウリン投与で延長したものの、その時のタウリン投与群と非投与群における血糖は共に低く、差は検出できなかった。 そこで本研究では、まずラットの頸静脈カニューレションにより長時間走行中の経時的採血を可能にし、血糖低下をタウリン投与が抑制するモデルの作製をめざした。3%タウリン水溶液を3週間投与し、3時間の絶食後にトレッドミル走(21.7m/min)を負荷した結果、疲労困憊時間が非投与群(n=6)の111.8±37.6分に対して、タウリン投与群(n=7)では193.2±23.4分という有意差が認められた。走行70~90分後での両群の血糖には有意差があった。すなわち、非投与群では110mg/dl弱から始まって走行10~20分後には120mg/dl台半ばに上昇し、徐々に低下して90分後には67.7±30.6mg/dlに至った。一方のタウリン投与群では80mg/dl台半ばから始まって走行20~60分後は120mg/dl前後で推移し、徐々に低下したものの90分後でも106.0±14.6mg/dlの水準にあった。 以上の結果より、平成23年度はめざすモデルを作製することができた。当該モデルは本研究課題を今後進めていくにあたって非常に有用なものとなるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における初年度(平成23年度)の最も大きな目的は、「長時間運動に伴う血糖低下をタウリン投与が抑制する」という興味深い現象に対して、そのメカニズムを追究するための端緒につくということであった。そのためには運動時の血糖変化を経時的に観察できるシステムが必要である。我々はラットの頸静脈カニューレションを用いたトレッドミル走行モデルにより、その事を可能にした。そうした意味において、初年度の研究目的の根幹部分は達成できたと考えている。 同時に目的に挙げた血中インスリン、グルカゴン、カテコールアミンの変化や筋グリコーゲンの変化については、サンプリングが既に終了しており今後順次測定していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究および我々のこれまでの研究成果からすると、「長時間運動に伴う血糖低下をタウリン投与が抑制する」メカニズムの一つとして肝糖新生の亢進が考えられる。そこで2年目(平成24年度)ではこのことの解明を中心に研究を進めていきたい。 まずは血糖低下抑制モデルにおけるグリコーゲン量を測定する必要がある.運動時の骨格筋,肝臓グリコーゲン量は血糖変動と深く関わっている。そこで、肝臓および骨格筋グリコーゲン量を定量することは必要であろう。また、血糖維持に関わるインスリン、グルカゴン、カテコールアミンについても検討する。 肝糖新生の律速酵素であるPEPCKやG6Paseの発現量および活性変化の検討は今年度の中心課題である。肝臓におけるPEPCKやG6Paseの発現は転写因子であるPGC-1αやFoxo1の活性化によりもたらされると報告されている(Postic et al.,2004)ことや一過性運動や筋の収縮刺激によりPGC-1αが増加する(Goto et al.,2000)ことが明らかになってきている。また、短期間や長期間の運動を行うとサイトカインであるIL-6が分泌されることも近年わかってきた。さらにIL-6をラットに注入すると糖新生律速酵素を増加させる(Sebastien et al.,2009)ことも報告されている。したがって今年度は、昨年度作製した運動実験モデルを用いて、「長時間運動に伴う血糖低下をタウリン投与が抑制する」メカニズム追究をするために、これらPEPCKやG6Paseの発現量および活性変化、PGC-1αやFoxo1の活性変化、IL-6の変化を追うことを主目的にする。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず昨年度と同様に、ラットおよび床敷、飼料に費用がかかる。また血液、骨格筋、肝臓などのサンプリングに関わる消耗品や血糖、インスリン、グルカゴン、カテコールアミンの測定およびPEPCK、G6Pase、PGC-1α、Foxo1、IL-6の測定に関わる試薬やキットに費用がかかる。さらに、これらの測定およびデータ分析のために研究員を雇用する予定である。 研究成果発表に関しては、国内外の学会に参加するとともに、研究の進捗状況によっては論文投稿も考えている。学会参加には旅費、宿泊費、学会参加費がかかり、論文投稿する場合には英文校正ならびに投稿料がかかることになる。 なお平成23年度の残額は、平成24年4月に支払い予定である。
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